活字だからと言って信用ならず
中曽根康弘世界平和研究所で主任教授を務める大澤淳氏は、ネットのみに限らない情報空間を俯瞰して、日本における陰謀論の拡散度合いや陰謀論に惹かれるメカニズムについて解説する。フェイクニュースサイトや匿名アカウントのみならず、国会議員にまで陰謀論者がいるのだから、現状はなかなか暗いものがある。
さらには冒頭で紹介した「書店の『陰謀論』棚」に本書と並ぶ、「ザ・陰謀論書籍」が紹介されている。〈日本でも陰謀論関係の本が意外に売れていることがわかる〉として、副島隆彦、馬渕睦夫といった、おなじみの顔ぶれが紹介されている。
研究対象だから仕方がないとはいえ、こうした陰謀論本をチェックせざるを得ない大澤氏の心情を慮らずにはいられない。だが、大澤氏が指摘しているとおり、滑稽でバカバカしい議論として一蹴できないほど、本が売れ、影響をもたらしてもいるのである。
財務省デモは書籍とネットの悪魔合体
時期的に本書では取り上げられていないが、現在、財務省前で展開されているデモなどは、まさに書籍とネット(SNS、ショート動画などを含む)の陰謀論が悪魔合体したことで膨れ上がった現象だろう。
財務省に問題があるという指摘は以前から少なくはないが、故・森永卓郎氏が自著で大々的に広めた「ザイム真理教」というキャッチーなフレーズに、さまざまな媒体や陰謀論者が乗っかったことで沸き上がった現象だ。デモの現場には、森永氏の顔写真をプラカードとして持参している参加者もいるようだし、参加者は思想の左右を問わないだろう。森永氏はとんでもない置き土産を現世に残して行ったことになる。
ネットによる認知戦の展開は社会にとって脅威だが、オールドメディアと呼ばれる新聞やテレビ、雑誌や書籍が発信源となる陰謀論も存在する。
なかなか特効薬はないが、本書で「相手の手口」を知り、安全保障としての認知戦分析を学ぶことには大きな意味がある。書店員さんはぜひ、本書を「陰謀論」棚にも並べてほしい。
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ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。