【読書亡羊】「情報軽視」という日本の宿痾をどう乗り越えるのか 松本修『あるスパイの告白――情報戦士かく戦えり』(東洋出版)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「戦前の反省」のもう一つの側面

思い込みによって、相手の姿を勝手に規定してはいけない。またセクショナリズムによって、情報共有が阻害されるようなこともあってはいけない。

本書では「防衛庁の天皇」と呼ばれた防衛官僚の海原治氏の格言も引用されているが、「願望が目標と定められ、目標に到達するための方法は慎重に検討されなかった」「物的戦力の不足は精神力で補うものとされた」などの文言は、情報分析のみならず、広く日本政治一般にも耳の痛い格言であろう。こと、防衛に関してはなおさらだ。

「戦前の反省」とは反戦的な文脈でのみ語られがちだが、こと情報分析においてはまだまだ「戦前の反省」が徹底されていないのではないか。本書はコンパクトにまとまった一冊だが、多くの教訓が詰まっている。

梶原麻衣子 | Hanadaプラス

https://hanada-plus.jp/articles/712/

ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

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読書亡羊 書評 梶原麻衣子

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