【読書亡羊】データが浮かび上がらせる「元自衛隊員」の姿とは  ミリタリー・カルチャー研究会『元自衛隊員は自衛隊をどうみているか』(青弓社)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


若い元自衛隊員に「改憲せず」が多い理由

もう一つ、調査結果をご紹介したい。この総裁選のさなか、論点として外せない憲法9条の改正について(問12)だ。

最も自分の考えに近いものを選べとする質問に対し、「改正しない」と答えたのは全体の15・5%と、さすがに少数派。分からない、その他を除くと、大まかに「改正すべき」とした回答は実に70%を超える。

一方でその改正の中身については様々なスタンスがあり、「9条2項をそのままに、自衛隊の保持その他を書き加える」22.7%、「専守防衛に徹する自衛隊を9条に明記(海外での武力行使はしない)」16.2%、「集団的自衛権を行使できる自衛隊を9条に明記(外国軍と一緒に海外で武力行使できる)」20.9%、「9条削除」10.7%などとなっている。

また、階級別では「改正しない」が8.1%と最も少ないのが幹部クラス。一方、年齢別では20代、30代で「改正しない」が22%超と最も多くなっている。

あくまでも「元自衛隊員」を対象とした調査なので、現役隊員の意識と一致するとは限らないが、60代、70代で「改正しない」が10%に達しない一方、若い世代で「改正しない」を選ぶ割合が倍以上となる理由に、思いを巡らせたくなる。

もしかすると、2011年の東日本大震災以来、自衛隊があらゆる災害において真っ先に派遣され、国民から感謝される場面が増えていることで、「憲法を変えずとも、国民との間に信頼関係が存在し、自衛隊の存在意義や名誉は保たれている」と感じられる場面が増えているからかもしれない。

実際、年長世代が口にする「自衛隊は日陰者扱いだった」というイメージは、近年、かなり払拭されている。かつてはほとんど見られなかった「自衛隊に潜入!」系の情報番組、バラエティ番組も定着しつつある。

そうした傾向を警戒する、加藤久晴『異様!テレビの自衛隊迎合──元テレビマンの覚書』(新日本出版社)なども出版されているが、自衛隊が日本社会で承認されることで改憲の理由が一つなくなるとしたら、護憲派にとっては「自衛隊迎合番組」も彼らの願いに資する可能性がある。

何ともねじれた状況だが、これは改憲派にとっても「憲法9条がこのままだと、自衛隊の名誉が傷つくから」という改憲理由が理解されづらくなっていく可能性を示してもいるだろう。

ただし、肯定的に映る自衛隊の姿が「軍隊としての自衛隊」という認識と一致しているとは言い難い点も、さらにもう一回転のねじれが生じているのだが……。

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退官後の自衛官はどこへ行くのか

最後に紹介したいのは、自衛隊を退官した後、どのような仕事についているかという設問(問41)だ。全体では防衛関連会社、自衛隊や防衛省と取引のある会社に勤める人が17%弱、それ以外の民間企業に勤める人が43.8%となっている。意外にも、というべきか、退職自衛官の半数近くが一般の民間企業で働いているのだ。

このことは、定年で退職した自衛官がどのようにその後の職業人生を歩いているのかを多くの事例から明らかにした、松田小牧著『定年自衛官再就職物語』(ワニプラス)にも詳しい。定年が早い(階級によっては50代前半)自衛官は、その後も社会を支える人材として、あらゆるところで働いているのである。

少子高齢化も相まって人手不足が懸念される業界や地方では、元自衛官のマンパワーに期待する声も大きい。日本各地に基地・駐屯地があり、祭りへの参加や自衛隊の行事などを通じて、地域に根付いていることもその理由の一つだろう。

『定年自衛官再就職物語』でも紹介されるように、介護や輸送といった職業に就く元自衛官もいる。『元自衛隊員は自衛隊をどうみているか』で、「(防衛装備とは関連しない)民間企業」に再就職したと回答している40%超の自衛官のそれぞれの生き方の実例を、『定年自衛官再就職物語』で補完して読むのもおすすめだ。

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書評 読書亡羊 梶原麻衣子

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