元自衛隊員に聞いた貴重な調査結果
現役隊員の定員が約25万人。定年を含む退職者が年間5000人程度と言われている自衛隊、「元自衛隊員」数のボリュームは思った以上に大きい。
そんな元自衛隊員に意識調査を行ったデータを集めたのが、ミリタリー・カルチャー研究会『元自衛隊員は自衛隊をどうみているか』(青弓社)だ。
ミリタリー・カルチャーというと戦車好き、戦闘機好きなどを想像してしまうが、同研究会は〈1970年代末に始まる戦友会研究以来〉の〈市民の戦争観・平和観を中核とした戦争や軍事組織に関連する様々な文化の総体〉を社会学的に研究する会なのだという。これまでにも、『データで読む現代日本の戦争観』『日本社会は自衛隊をどうみているか』(いずれも青弓社)を刊行している。
今回は、元自衛隊員約2000人に、安全保障政策から、自衛隊の組織や広報のあり方、ハラスメント対策や待遇、自衛隊関連の映画や文学作品、そして退職後どのような職業に就いたかまで、さまざまな質問を行っている。
自衛隊の場合、現役隊員に対してこうした調査を大規模に行うのはなかなか難しい。それゆえ、本書の調査は「元自衛官」が対象とはいえ、貴重な調査結果と言えるだろう。
本書はデータと簡単な解説が掲載されているのみ。そのため調査結果を眺めているだけでも面白い本なのだが、やや無機質に感じる方もいるかもしれない。そこで、調査結果から読者は何を見出せるか、想像を巡らせながら紹介してみたいと思う。
階級によって見える景色が違う
元自衛隊員としてメディアで発言する機会が多いのは元幹部(それも将クラス)だが、実はそれが「元自衛官」すべてを代表する意見とは言い難い。士や曹と言った階級から見れば、将官クラスは「雲の上の人」。同じ時期に自衛隊にいたといってもそこでの役割や責任は違っており、組織の捉え方やあるべき姿までもが大きく異なったとしても、不思議はない。
本書の調査では階級、年齢でのクロス調査も行っていて、そのデータからは実際に「組織内の立場や世代によって、見える風景が微妙に違う」ことがわかるのだ。
例えば、〈今後10年のうちに自衛隊が、国内あるいは国外において軍事力を行使するような有事が現実に起こるとお考えですか〉(問8)の質問は、全体では「そう考える」が24.4%だが、退職時の階級別でみると准尉・曹クラスだった人が「そう考える」割合は31.9%と最も高くなっている。
どうしてこういう差が出るのか、本書に解説はないが「将クラスになると慎重な思考が求められるから、割合が下がるのか」「准尉・曹クラスだと実際に軍事力行使を命じられる側になる可能性があるから、危機感が強いのか」など、様々な想像力が刺激され、新たな疑問や論点も浮かんでくる。
単に「元自衛隊員」としてしまうと考え方も一色のものとしてとらえられがちだが、年代、階級でのクロス調査があることで、自衛隊の中にあるグラデーションや個々の考え方の違いがうっすらとだが見えてくるのである。