再分配前の当初所得のジニ係数は80年代から増加し続けてきました。これは日本全体の高齢化と核家族化によるものです。定年を過ぎた高齢者の世帯は、現役世代の世帯と比較して、当初所得が当然低くなります。
格差の大きさを示す当初所得のジニ係数は、高齢化が進めば、そして高齢者の世帯を増やす核家族化が進めば、当然増加します。
しかしながら、安倍政権ではむしろこの値が減少しました。なぜかと言えば、雇用が拡大して主婦や高齢者層が新たに働く機会を得たためです。
原発停止と引き換えに産油国に金を払う
さて、本当の意味で格差を示すのは、当初所得のジニ係数ではなく、当初所得から税金、社会保険料を控除し、社会保障給付(現金、現物)を加えた再分配所得のジニ係数です。
現役世代が多額の社会保障費を支払い、高齢化世代や生活困窮者が多額の社会保障費を受け取るリベラル国家の日本では、貧しいものに優しい社会であり、当初所得のジニ係数が拡大を続けているにもかかわらず、再分配所得のジニ係数は横ばいを続けているのです。
つまり、浜田氏が主張する「アベノミクスによって非常に経済格差が深刻になって」というのは完全なデマであり、むしろ自民党政権は格差を見事に抑制していると言えます。これ以上高齢者に有利な分配を進めれば、世代間格差をさらに拡大する本末転倒の過剰な福祉国家になりかねません。
浜田敬子氏:「グリーントランスフォーメーション(GX)」という新しい言葉も出してきて、これも結局ふたを開ければ原発回帰だった。新しい言葉を出してくるが、結局旧来型の価値観に則った政治だった。
これは典型的な【新しさに訴える論証 appeal to novelty】という誤謬です。古い政策が劣っていて新しい政策が優れているという保証はありません。すべては、結果の比較によります。原発の利用は国民に大きな経済的・環境的利益を与えます。
東日本大震災後に、『サンデーモーニング』をはじめとする日本のテレビ番組が、感情に任せて原発を過剰に危険視し、原発を運転停止に追い込んだことで、日本のベースロード電源が供給する電力(kW)は、24時間にわたって一律大幅に低下しました。これを代替したのが、原子力発電よりも発電単価が高く二酸化炭素を多く輩出するミドルロード電源である石油火力とLNG火力です。
この電源構成の変化によって、日本は恒常的に毎年3兆円もの追加費用を産油国に燃料代として支払うことになりました。重要なことですが、富が国外に流出するということは、乗数効果がキャンセルされることを意味し、GDPは金額以上に落ち込む羽目に陥ったと言えます。
さらに生産コストの上昇に伴う製造業の海外移転による産業の空洞化は日本の存亡に関わる深刻な問題になりました。日本経済は原発運転停止によってGDPでマイナス1%にも及ぶ大きな損失を受け続けていますが、これは十年間で国民一人当たり20万円の電気料金の支出に相当します。3人家族ならなんと60万円です。
実に私たち国民は、原発運転停止と引き換えに、過去10年以上にわたって莫大な金額を電気料金経由で産油国に支払わされてきたのです。この理不尽な無駄遣いを終わらせる意味でも、岸田政権の原発政策の大転換は極めて重要な意味があったと言えます。
また、原油と天然ガス、特に原油は中東やロシアなど特定の地域に偏在しているため、輸出国の性状や政策によって変動しやすく、直接それが電気料金に跳ね返ります。
よく知られているように、今般の電気料金高騰の大きな要因も、ロシアのウクライナ侵攻による世界的な原油価格と天然ガス価格の高騰にあります。一方で原子力発電の燃料であるウランは世界に分散して賦存しているため価格変動は小さく、供給安定性に優れています。
岸田首相は、民主党政権が国民に課した理不尽な仕打ちを断ち切り、原発を積極的に利用して行くことを宣言したのです。これを「原発回帰」などと言葉を躍らせて批判するのは愚の骨頂と言えます。