
この文書は「海幕管第722号 40.2.6」と記載された公文書で、確認事項に「火器、弾薬は集積しない」とある。つまり、阪神基地隊に「弾薬と火器」を持ち込まないという約束を神戸市と海上自衛隊の間で結んだものだ。当時の海上幕僚長「西村友晴」氏の名前と神戸市長「原口忠次郎」氏の2人の名前がそこに書かれている。
この文章に書かれてある約束通りに阪神基地隊に「火器、弾薬は集積しない」のであれば、阪神基地隊はミサイル迎撃などの防衛力を行使して市民を守ることはできない。昭和40年当時の神戸市長が取り交わしたカビの生えたような文書を自衛隊が遵守していたとすれば、阪神間の防衛力は絵に描いた餅ということだ。
神戸市は川崎重工業や新明和工業、神戸製鋼など重要な防衛産業の拠点でもある。昭和20年2月4日、3月17日、5月11日、6月5日、8月6日に神戸市の市街地や工場に対して大規模な焼夷弾による爆撃があった。さらに、海には機雷や模擬原爆が投下された。無差別爆撃攻撃で神戸市は一面焼け野原になり、8000人を超える市民が亡くなった。
昭和40年と現在では国際情勢は大きく異なる。神戸市民を守るはずの阪神基地隊が軍事攻撃に対して「迎撃力ゼロ」でいいはずがない。
2月29日、上畠寛弘議員は市議会で「昭和40年に交わされたこの文書は、神戸市に存在するのか?」と質問した。
神戸市都市局長の山本雄司氏の回答は「市議のご指摘の文書は存在します」だった。
上畠議員はさらにこう質問した。
「神戸市は見直しを行うべき協議に応じるのか?」
神戸市はこう回答した。
「利用計画変更の申し出が自衛隊側からあれば、協議を受け入れる」
市民を守ってもらうはずの神戸市議会でこの文章が発見されたが、そもそも防衛大臣はこの件を知っていたのか? 神戸市は潜水艦の唯一の製造・修理管理を行う拠点だ。海の守りの要を守る海上自衛隊の拠点が「火器・弾薬を集積しない」とされたまま、放置してきた防衛省の責任は重い。武装集団に襲撃されれば、阪神基地隊はひとたまりもないではないか。
この神戸市にあった「火器・弾薬を集積しない」のような約束が、全国の他の自治体にもあるのではないかと危惧される。

自民党 神戸市会議員 うえはたのりひろ(上畠寛弘)の公式サイトです。日々の取り組みや思いなどをお知らせしています。
神戸以外にも「昭和の亡霊」はいる……
2019年2月7日、東京市ヶ谷の防衛省正門から侵入した男が、警戒中の自衛官の持つ小銃を奪おうとした。不意を突かれた自衛官は横転したが、不幸中の幸いで大きな怪我にはならなかった。近くにいた警備員が男を取り押さえ、事なきを得た。
この事件について、共同通信がすぐに「正門にいる自衛官が持つ小銃に実弾は入っておらず、奪われても発射される恐れはない」と配信。防衛省の正門を警備する自衛官の銃に実弾が入ってなかったことにも驚いたが、それを報じることにも、衝撃を覚えた。
自衛隊が戦後長らく、様々な形で火器や弾薬を持たず、使わないようにその能力を制限されてきた一例だ。その結果、防衛省の正門を丸腰の男が襲うほど見くびられる事態となったのだ。
外交や安全保障は「国の専管事項」とされているが、自治体によって国防能力が制限されるような過去の制約を見直す時期だ。
日本の周辺情勢は大きく変わった。北朝鮮は核兵器や各種ミサイル開発を行い、中国は軍事力拡大と日本の領土領海に迫る動きを見せている。自治体側がすでにその制約を不要だと感じていても、自衛隊側が今もこだわっている場合もあるだろう。「昭和の亡霊」のような文書で自衛隊の手足が縛られていないか、いますぐ確認しなければならない。
警察で対処できない事件やテロ、暴動が発生した場合、自衛隊が治安出動する。その時に自衛隊の拠点に火器や弾薬を集積していないのでは対処はできない。
2019年11月、尼崎市で軍用の自動小銃での暴力団幹部銃殺事件があった。ハンドガンと自動小銃では殺傷能力が全く違う。自動小銃の弾丸は回転しながら人体の内部組織を大きく破壊する。着弾速度750m/s以上の弾が命中すれば弾丸直径の30倍の穴が体に開く。NATO弾7.62mm弾であれば直径約23cmの大きな穴になる。
大腿部に命中しても血管や骨を損傷し致命傷になりかねない。殺傷能力の高い武器での犯罪がすでに関西圏で発生している。これが複数犯であれば、とても警察では対処できないだろう。凶悪犯罪から国民を守る治安維持組織としての自衛隊の存在意義も認識すべきだ。
自衛隊員がいかに体を鍛え、厳しい訓練で練度をあげても「火器や弾薬」がなければ、武装したテロリストから国民を守る力はない。「昭和の亡霊」が日本の各地で自衛隊の能力を著しく縛りつけている……。
今回、神戸市でこの文書が見つかったことで神戸の治安維持は大きく向上することだろう。他の市町村もこのような過去の亡霊がいないかを調べ、早急に見直してほしい。