「火器、弾薬は集積しない」という約束
阪神基地隊は阪神地区で唯一の海上自衛隊の拠点だ。大阪湾、紀伊水道等海域の防衛・警備、艦艇への後方支援を担っている。大阪湾や紀伊水道で機雷等の爆発物が発見された場合に処理する第42掃海隊もこの阪神基地隊内にある。
兵庫県には伊丹市に中部方面隊総監部があり、また、小野市、姫路市、川西市等に陸上自衛隊の駐屯地があるものの、人口が密集している阪神沿岸部からは離れている。神戸市や阪神沿岸部を守る拠点として阪神基地隊は重要だ。
北朝鮮が頻繁に各種ミサイルを発射している。万一、弾道ミサイルが日本上空に発射され、イージス艦のSM3が海上での迎撃に失敗した場合、最終フェーズをPAC3で地上から狙うしかない。このPAC3の射程距離は15km~25kmと言われている。
阪神基地隊は神戸港の東部海面第3工区埋立地の南東部にある。ここにPAC3を配備すれば、神戸市周辺の人口密集地や産業拠点である阪神地帯へのミサイル攻撃をある程度はカバーできる。ミサイル防衛の観点からも海上自衛隊阪神基地隊はなくてはならない拠点だ。
しかし、この阪神基地隊の存在意義を覆すような驚くべき文書が神戸市で見つかった――。
令和6年2月29日、神戸市議会の予算特別委員会で上畠寛弘(うえはた・のりひろ)市議が質問。その内容は、海上自衛隊阪神基地隊を大阪から神戸に移転する際、自衛隊と神戸市との間で交わされた文書についてである。
昭和39年、大阪基地隊の移転候補地として神戸の埋め立て地の売却案件が神戸市議会に上程された。この埋立地の売却案件は土地が大きすぎることと自衛隊の神戸への進出そのものへの反対によって一度は本会議で否決された。だが、自衛隊の規模が大きすぎるという反対意見を考慮し、売却土地面積を減らして12月の本議会に再び上程。その結果、自民党と民社党の賛成で可決した。
しかし、ここで問題が……。阪神基地隊の移転の目的を「入港する艦隊に対する生鮮食料品や水、燃料、消耗機材等の補給、艦船に対しての小修理等、いわゆる平和的業務にのみ従事」とし、「火器、弾薬は集積しない」平和的利用に限定してしまったのだ。
この約束で、阪神基地隊はミサイル攻撃への防衛も、テロに対しての治安出動や基地防衛も丸腰で挑むしかない。まさに自衛隊の手足を縛る約束であった。
阪神基地隊(撮影/筆者)
阪神基地隊には火器、弾薬がない?
昭和39年9月24日の神戸市議会で「神戸港東部海面第3工区埋め立て地についての売却議案」が可決された後、同市と海上自衛隊との確認事項としてこの文書が取り交わされた。次頁の画像が、「神戸港東部海面第3工区埋め立て地のうち、海上自衛隊用地の利用に関する確認事項について」という昭和40年2月4日に交わされた文書である。