「24時間」働けますか? 自衛隊の過酷な労働環境|小笠原理恵

「24時間」働けますか? 自衛隊の過酷な労働環境|小笠原理恵

自衛隊に入隊する多くの人は、誰かの役に立ちたい、家族や国民の命を守りたいという思いをもっている。しかし自衛隊は隊員を大切にしない。入隊時には説明されていなかった無数の職務が課され、休養を取る時間すらないのが現実だ。(サムネイルは「防衛省統合幕僚監部」のXより)


手当なしの「待機」と「残留」

ある自衛隊員は言う。  
「代休は確実に取れる、それは書面上の話ですよ。実際は代休申請し、取得した日に演習等で溜まった仕事のため強制的に出勤しなければならない。ある意味捨てたも同然です。災害時はもっと地獄。休日返上で派遣に出て、落ち着いたら代休→災害対処で仕事が溜まる→代休出勤で夜中まで残業。こんなことがまかり通る世界です」

このような自衛隊側の都合で代休は利用され、書類上取得しているが本当の休みではないことがある。

「待機」も「残留」も一切手当は出ない。たまたま、災害派遣要請がきてその日が仕事となっても、手当が出ることはない。深夜、夜間の長時間勤務でこの条件だが、これ以外にも外出規制がある。

▢FAST-Force (即動待機)
・2013年から陸上自衛隊では災害が起きて要請があれば24時間出動可能とするため、自衛隊員の外出規制を整えた。
・手当なし。
・陸上自衛隊で人員約3900名 車両約1100両、航空機約40機 初動対処部隊が24時間待機、命令受領後1時間を基準に出動
・海上自衛隊で緊急輸送任務のための待機 10~20機 15分から2時間以内基準に待機
・航空自衛隊で緊急輸送任務のための航空機待機 10~20機 15分から2時間以内基準に待機
 
▢残留 営内勤務者
・手当なし
・営内者(拠点の中で生活する自衛隊員)はFAST-Force人員が即座に行動できるための荷物の積み込み等のバックアップ要員として、いつでも動けるように休日でも外出制限がある。

代休だけはきちんと取得できるように!

能登半島地震は元日の16時10分に発生した。自衛隊でも正月やお盆休みは特別休暇となり、長期休暇を取ることが許される。自衛隊員にとってこの休みを返上しての被災地への派遣がどれほど苦しいことかをわかっていただきたい。

災害派遣後に自衛隊の退職者は一気に増える。災害派遣に正月でも緊急呼集があれば行かなければならないことは仕方ないだろう。しかし、この代休だけはきちんと取得できるようにしてほしい。

特別休暇の取得時期を延長する処置が検討されていると聞いたが、隊員たちが家族と過ごすことができる長期休暇を災害後から確実に取れるように配慮していただきたい。

厳しい災害派遣を頑張った自衛隊員の心と体は、家族とともに穏やかにゆったり過ごす時間がなければ、癒されることはないと思う。

昨年11月21日、筆者が主催する「自衛官守る会」は、自衛隊員の家族、OB、予備自衛官たちの声を国会議員に届け、自衛隊への待遇改善問題への取り組みの報告を国会議員から聞く会を開催した。

国会開会中の会議だったが、常時十数人の議員が参加してくれた。自衛隊員たちが通常勤務のあと深夜の当直業務にあたり、その翌日も夕方5時まで勤務を続けるという過酷な業務に議員たちも「エッ……」と声を上げるシーンがあった。

参加した議員からは、このような実態を変えていきたいという声が上がった。現職自衛官からは言えない問題をぜひ、改善していただきたいと思う。

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