「台湾社会の理性を軽く見ている」人たち
保守派の場合は台湾を大事に思えばこその「弟妹」だが、実は左派(?)にもそうした意識があるようで、本書でも「日本が台湾に対して独立を煽るから、台湾もその気になり、それを中国が制しようとして東シナ海の波が高くなっている」と見ている人々が紹介されている。
こうした見方について、野嶋氏は次のように苦言を呈す。
台湾社会の理性を軽く見ているか、あるいは台湾の現状を何も知らないかのどちらかで、いずれにせよ、台湾に対していささか失礼な発言だと私は感じます。
これは思想の左右双方に共通する「台湾認識のアップデート不足」から来るものだろう。
オールドな左翼の中には、「中国を警戒すべき対象と考えるなんて、それじゃ右翼と同じじゃないか」「右のやつらが好きな台湾を支持するなんて、冗談じゃない」という人が今なおいると聞く。完全に「中国観」「台湾観」のアップデートが遅れているケースだが、保守派も他山の石とすべきだろう。
これまた筆者(梶原)も同様なのだが、いわゆる日本語世代の台湾人(中でも独立運動派)の人たちの思いはかなり読んだり聞いたりして我が身にしみ込ませてきた一方で、若い世代の台湾人の感覚を理解しているとはいいがたい面がある。
同じ「日本人」でも世代や立場によって考えも価値観も違うように、一概に「台湾人」といっても、かつての日本語世代の台湾人と、今の若者とでは、対日感情も対中感情も、全く違っている(当然、国民党や民進党に対しても見方が違う)。だが、「本当の台湾の多様な声」を聞き、きちんとした情報源に当たらなければ、その「違い」にすら気づくことはできない。
本書は、こうした「台湾認識のアップデート」のために最適である。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。