岸田首相の「政治力」では、川勝知事に太刀打ちできない理由|小林一哉

岸田首相の「政治力」では、川勝知事に太刀打ちできない理由|小林一哉

パーティ券問題が自民党を揺るがし、自民党県議団は知事辞職に求める政局がらみの騒ぎを起こしている余裕がなくなってしまった。 しかし、それ以前に、岸田首相は、本気でリニアを進めようとしているのか……。


発想の貧困さに呆れ

JR東海のリニア紹介パネルの一部(JR静岡駅、筆者撮影)

この報告書に対して、川勝知事は10月23日の会見で、「10カ月も掛けてやられたことに、お粗末であり、あきれている」、「1・5倍にすれば、どれだけになるかと算数の計算を、子どもにさせるようなことを、大官僚組織がやるほどのことかと改めて思う」など「お粗末」を計4度も繰り返して、徹底的にけなした。
 
ただ相手をけなすだけで、自分自身の間違いには全く触れなかった。
 
川勝知事の意見書には、『JR東海の長期債務残高「6兆円」問題』という大間違いのタイトル事案を登場させていた。
 
どう考えても、国交省の報告書をけなすことのできる立場ではないのだ。
 
知事意見書では、「JR東海は長期債務残高を『5兆円以内』とすることが適切かつ必要」としていたが、「現在のJR東海の長期債務残高は健全経営の限度5兆円以内を優に超えている。国に提出した事業計画とは明らかに異なる事態で、政府による検証が必要である」などとしていた。
 
実際のJR東海の長期債務は、財政投融資からの借入額3兆円を含めて、「4・99兆円」に過ぎない。
 
つまり、「JR東海の長期債務残高は『6兆円』ある」と大きな間違いをしてしまった。
 
どっちもどっちである。
 
筆者は、岸田首相の政治力は、ひかり、こだまの本数が増えることを見せるだけで静岡県のリニア問題を解決させようとする発想のあまりの貧困さにあきれてしまった。愚策以外の何ものでもない。
 
JR静岡駅構内へ行けば、JR東海がリニアを紹介したパネルに、のぞみが減って、ひかり、こだまが増えることを図で紹介している。その本数が何本になるのか、いまの時点で1・5倍になるなどに誰も関心を持っていない。
 
リニアが開業すれば、ひかり、こだまが増えることは当たり前である。
 
一番、問題なのは、国交省が報告書を発表したことで、リニアがJR東海の事業ではなく、国の整備新幹線のような事業と勘違いした県民が少なからずいたことである。
 
川勝知事は12月県議会で、リニア問題の解決策が「部分開業」だと述べて、「できるところから開業すればいい」と発言した。当初は、南アルプストンネルができないならば、品川、山梨県駅を開業すればいいと主張していた。
 
国の公共事業ではないのだから、大赤字を覚悟で民間のJR東海がそのような「部分開業」に耳を貸すはずもない。
 
しかし、一般の人たちは国の事業と勘違いしているから、「部分開業」に大賛成の人が出てきてしまうのだ。

小手先では解決できない

JR東海の長期債務には、3兆円の財投資金が含まれる。
 
この多額な資金は、当時の安倍晋三首相の指示で、2016、17年の2カ年で投入された。
 
品川、名古屋間の開業後に、名古屋、大阪間のリニア工事に早期着手させる趣旨である。利子負担も非常に軽く、30年間元本返済猶予でリニア開業後に元本返済という非常に有利な債務だった。
 
これこそが政治の力である。
 
小手先で片付けられるほど、リニアの静岡問題は簡単ではなくなっている。川勝知事という「権力者」に真正面から対峙しなければならない。
 
事業者のJR東海では手に負えないから、岸田首相も年頭に、リニアの全線開業に向けて大きな一歩を踏み出す年にしたいと宣言したのだろう。
 
結局、国交省はムダな仕事を1つ増やしただけで、何ら実効性のない報告書をつくっただけである。
 
1年が過ぎようとして、いまや岸田政権は風前の灯である。
 
G7議長国として、地元、広島でサミットを開催、とにかく外遊が多かった印象だけが残る。

岸田政権が発足した直後の2021年10月6日の会見で、川勝知事は「リニアに対して、一度だって反対したことはない。のぞみ機能がリニアに移ると、ひかりとこだまの本数が増える。従って、リニアは静岡県にとってメリットがある。だから、一度だってリニアに反対していない」などと自信たっぷりに述べていた。
 
当然、すべての政治家は嘘つきであると考えたほうがいい。その上で、川勝知事にちゃんと向かい合える政治家はいないのかと、残念な気持ちで年末を迎える。
 
静岡県のリニア問題は、解決の兆しが見えないまま2024年に突入する。

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