ラグビーW杯 フランス代表の「アレ!」|山口昌子

ラグビーW杯 フランス代表の「アレ!」|山口昌子

ラグビーワールドカップ2023フランス大会は、南アフリカの4度目の優勝で幕を閉じた。開催国フランスの初優勝はならなかったが、フランス国民は挙国一致でチームを応援。日本人とは異なる、フランス人の熱狂ぶりはいったいどこからくるのか。その歴史を紐解く。


さて、前述したとおり、ラグビーに限らず、サッカーのW杯でも五輪でも、フランス代表選手が着用するユニフォームは、必ず国旗の「青、白、赤」の3色を基調にしている。「青」が主体になることが多いので、仏代表選手の代名詞が「青」(ブル)なのだ。ラグビーのW杯でも、青のジャージに白のパンツ、靴下が赤だった。

フランスに限らず、大半の国の代表選手のユニフォームの色も、国旗の色や模様を基調にしている。サッカーの至宝リオネル・メッシは、W杯では常にアルゼンチンの国旗の色、空と海を表す白と空色を基調に独立戦争の象徴である金色の「5月の太陽」をあしらったユニフォームを着ている。

アルゼンチンのユニフォームのデザインが大幅に変わることはない。ラグビーでも五輪でも、いかなる国際競技に出場しても、だからアルゼンチンの選手は一目瞭然である。ウクライナの国旗が黄色と青であることは、いまや国際的に有名だ。ウクライナの代表選手が敵国ロシアの国旗の色、青や赤、白を配色したユニフォームを着るなど想像できない。
 
ラグビーのW杯では、日本代表は前回も今回も日本の国旗「白地に赤く」の日章旗の赤と白の2色だけを見事に使った素晴らしいデザインのユニフォームを着用していた。このユニフォームをデザインしたのは誰なのだろう。発表があったのかもしれないが、心から拍手喝采をしたい。

翻って、いつも気になるのが、サッカーのW杯や五輪での日本選手のユニフォームだ。デザイナーの名前なども麗々しく発表されることが多いが、どこの国の選手なのかと国籍不明のユニフォームが多い。

「赤」も「白」も見当たらないどころか、時にはフランスの代表選手のユニフォームにそっくりの「青」を基調にしていることもあった。おまけに「サムライ・ブルー」と呼ばれているので、余計に紛らわしい。

この呼び名の根拠を仏人記者に問われて、返答に窮したことがある。
「日章旗は『赤』と『白』の2色と単純な色なので、デザインが難しい」 「赤と白が入った国旗の国が多いから日本色を出すのは難しい」などの指摘があるが、ラグビーの日本代表のユニフォームのように、デザイン次第ではなかろうか。また、毎回変える必要もないのではないか。

ユニフォームの売上が伸び悩む、と危惧する業者がいそうだが、勝手に悩むがいい。もっとも、第2次世界大戦への反省から生まれたと言われる日本国憲法に「国旗」や「国歌」への言及がないのは、憲法の平和主義の精神を具現しているからだろう。その意味では、五輪などの日本代表選手のユニフォームは極めて憲法の精神に忠実といえるのかもしれない……。

来年は「パリ五輪」だ。フランス人の熱狂的な「アレ!」も外国人にとってはウンザリ、興ざめだが、日本選手のようにまったく国旗の色とは無関係の唯我独尊的なユニフォームだと、やはり応援する気が多少、失せる。日本人としては「赤と白」の旗幟鮮明なユニフォームで同胞に頑張ってもらいたい、と密かに思っている。

パリ日記―特派員が見た現代史記録1990-2021 第5巻

著者略歴

山口昌子

https://hanada-plus.jp/articles/1419

在仏ジャーナリスト。元産経新聞パリ支局長。1994年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。2013年、レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受賞。2023年1月、同賞のオフィシエに昇格。著書に『ココ・シャネルの真実 』(講談社+α文庫)、『パリの福澤諭吉』(中央公論新社)、『ドゴールのいるフランス』(河出書房新社)、『大統領府から読むフランス300年史』(祥伝社)、『原発大国フランスからの警告 』(ワニブックスPLUS新書)など。近著は『パリ日記―特派員が見た現代史記録1990-2021(全5巻)』(藤原書店)。

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