選手を鼓舞するフランス国歌
ラグビーのワールドカップ(W杯)では、開催国のフランスは、例によって国民が挙国一致でチームを応援した。選手に優勝を意識させずに「アレ」と隠語を使った阪神タイガースの岡田彰布監督と異なり、フランス人は「アレ(仏語で行け)!」の大声援、大合唱だった。
このフランス人の熱狂ぶりは、いったいどこからくるのか。ラテン民族で元来、ネアカで楽観的な国民ではあるが、それにしても「好戦的」とも言える態度をみていると、我々日本人との国家観の相違を思わずにはいられない。
この「アレ(Allez、動詞aller=行くの命令形)!」の大合唱は、「レ・ブルー(Bleu)!」と続く。「ブル」(青)はフランスの国旗「三色旗」の青白赤の一色だ。よってW杯や五輪など国際競技における仏代表選手の代名詞は「Bleu」(ブル)だ。
さらに試合中は、ここぞという時に、スタンドからフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の大合唱が起きる。7番まである国歌の1番の歌詞の冒頭は、〝行こう、祖国の子供たちよ 栄光の日は来たれり!〟。特にリフレインの〝武器を取れ!〟のところでは拳を握って腕を突き出し、戦闘気分を盛り上げる。
日本の国歌「君が代」や英国歌「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」、米国歌「星条旗よ永遠なれ!」に比べると、威勢の良いメロディーと相まって、選手を鼓舞するのには極めて効果的な国歌だ。だから「ラ・マルセイエーズ」を応援歌だと勘違いしている外国人もいるほどだ。
「あまりにも好戦的」との批判も
「君が代」に関しては「天皇制反対者」らからの批判があるらしいが、少なくとも好戦的ではない。試合前の国歌斉唱によって心を静めたり、決意を新たにしたりするには最適かもしれないが。英米の両国歌も大国の国歌らしく荘重だが、応援歌としては盛り上がりに欠ける。
「ラ・マルセイエーズ」が威勢が良く、好戦的なのは当然だ。フランス革命中に、外敵から祖国を防衛するための軍歌として誕生したからだ。ただ、応援歌にはピッタリだが、国歌としては「あまりにも好戦的」との批判が定期的に起きる。
1番の歌詞は次のように続く。
〝我らに向かって圧政の血塗られし軍旗は掲げられたり、聞こえるか、戦場で、あの獰猛な兵士どもが唸るのを。奴らは我らの腕のなかにまで、我らの息子を、妻を、殺しに来る〟
リフレインのところは、〝武器を取れ!〟に続いて、〝市民諸君! 隊伍を整えよ、進もう! 進もう! 不浄な血が我らの田畑に吸われんことを!〟と叫ぶ。
ウクライナ戦争勃発時に即刻、多数ではないがフランス人が義勇兵として、獰猛ロシアに対して果敢に立ち上がってウクライナ救済のために駆けつけたのもむべなるかな。フランスでは米国と異なり、ピストルなどの銃器の販売は禁止されているが、猟銃は身分証明書の提示など簡単な条件で購入できるので、カラシニコフ代わりに猟銃担いでの参戦だ。
フランス国家としても、NATO加盟国のウクライナの隣国ルーマニアに即刻、NATOの一員として500人を派兵した。いざ、開戦に備えてである。
2番以下の歌詞は、さらに好戦的だ。
〝フランス人よ ああ! 何という屈辱か! 溢れるばかりの激情をき立てることか! 外国の軍勢が我らの故郷で我が物顔に振舞うとは! 手を鎖でつながれ、くび木を付けられし我らの首が屈するとは! 卑劣な暴君どもが 我らの運命の支配者になりおおせるのだ! 我らの旗の下、勝利の女神がわが身の雄々しい歌声を聴き、駆けつけんことを! 瀕死の敵どもが、我らの勝利と我らの栄光を見んことを!〟
フランス国内で、歌詞変更の論議が定期的に活発に交わされるのも当然だ。ところが毎回、いつの間にか立ち消えになる。そして相変わらず、〝武器を取れ!〟〝進め! 進め!〟と叫んでいる。