2002年に断行した「国歌愛着運動」
フランス国家の国旗は王制時代の百合の花から共和制の象徴の三色旗に代わったが、「雄鶏」の記章は王制、革命(共和制)、帝政、王制復古、そしてまた共和制と目まぐるしく変わった体制を生き抜いて現在に至る。ラグビーやサッカーのW杯や五輪でも、仏代表のユニフォームの胸には必ず「雄鶏」の記章がある。
「ラ・マルセイエーズ」は、大統領選や国民議会選挙の候補者の集会では、党派の左右と関係なく、候補者と出席者が最後に絶唱し、「共和国万歳! フランス万歳!」で締めくくるのが慣習だ。
国家元首の大統領が重大事件発生時に、エリゼ宮(大統領府)から「国民に告ぐ」といった感じで、重々しくラジオ・テレビ演説を行う時も、三色旗と欧州旗を背後に「ラ・マルセイエーズ」の伴奏とともに登場する。最後は「共和国万歳! フランス万歳!」だ。
ところが、21世紀を迎えた頃から、この伝統ある国歌を歌えない仏国民が増えた。「国歌」を学び、歌う機会が多かった徴兵制度が1996年に廃止になったうえ、移民2世などの増加が加わったからだ。
徴兵制度はフランス革命中に「国民皆兵」の理念の下に誕生したので、これまたフランス共和国の象徴だった。だから、フランス人には日本の自衛隊論争が理解できない。なぜ、国防の要の軍隊が否定されるのか――。
国歌が歌えない国民が増えたのを慨嘆した時の文化相ジャック・ラングが2002年に断行したのが、「国歌愛着運動」だ。国歌の成り立ちから種々の編曲など、詳細に記述したパンフレットやCDを全国の小、中学に配布した。ちなみに、ラングは極右の政治家でも保守派の政治家でもなく、社会党の重鎮である。
約60ページの冊子の冒頭には、「生徒たちに、この祖国愛に溢れ、且つ市民的な国歌への愛着を願う」とのラングの声明文が記載され、誕生の詳細な歴史をはじめ歌詞や楽譜はもとより、多数ある編曲を漏れなく収録したCDも添えられた。
編曲のなかでは、国家行事などで最も演奏されるベルリオーズの荘重なメロディーからチャイコフスキーやシューマン、ドビュッシーに加え、1975年に人気ミュージシャン、セルジュ・ゲンスブールが発表して大スキャンダルになったレゲエ・バージョンも収録されている。
ラングは「『ラ・マルセイエーズ』の運命は独特だ。軍歌であり革命歌であり、共和国の象徴だ」と総括している。つまり、「ラ・マルセイエーズ」はフランス人の好戦的な性格の具現化であり、フランス人にとっては永遠なり、というわけだ。