ラグビーW杯 フランス代表の「アレ!」|山口昌子

ラグビーW杯 フランス代表の「アレ!」|山口昌子

ラグビーワールドカップ2023フランス大会は、南アフリカの4度目の優勝で幕を閉じた。開催国フランスの初優勝はならなかったが、フランス国民は挙国一致でチームを応援。日本人とは異なる、フランス人の熱狂ぶりはいったいどこからくるのか。その歴史を紐解く。


2002年に断行した「国歌愛着運動」

Getty logo

フランス国家の国旗は王制時代の百合の花から共和制の象徴の三色旗に代わったが、「雄鶏」の記章は王制、革命(共和制)、帝政、王制復古、そしてまた共和制と目まぐるしく変わった体制を生き抜いて現在に至る。ラグビーやサッカーのW杯や五輪でも、仏代表のユニフォームの胸には必ず「雄鶏」の記章がある。

「ラ・マルセイエーズ」は、大統領選や国民議会選挙の候補者の集会では、党派の左右と関係なく、候補者と出席者が最後に絶唱し、「共和国万歳! フランス万歳!」で締めくくるのが慣習だ。

国家元首の大統領が重大事件発生時に、エリゼ宮(大統領府)から「国民に告ぐ」といった感じで、重々しくラジオ・テレビ演説を行う時も、三色旗と欧州旗を背後に「ラ・マルセイエーズ」の伴奏とともに登場する。最後は「共和国万歳! フランス万歳!」だ。

ところが、21世紀を迎えた頃から、この伝統ある国歌を歌えない仏国民が増えた。「国歌」を学び、歌う機会が多かった徴兵制度が1996年に廃止になったうえ、移民2世などの増加が加わったからだ。

徴兵制度はフランス革命中に「国民皆兵」の理念の下に誕生したので、これまたフランス共和国の象徴だった。だから、フランス人には日本の自衛隊論争が理解できない。なぜ、国防の要の軍隊が否定されるのか――。

国歌が歌えない国民が増えたのを慨嘆した時の文化相ジャック・ラングが2002年に断行したのが、「国歌愛着運動」だ。国歌の成り立ちから種々の編曲など、詳細に記述したパンフレットやCDを全国の小、中学に配布した。ちなみに、ラングは極右の政治家でも保守派の政治家でもなく、社会党の重鎮である。

約60ページの冊子の冒頭には、「生徒たちに、この祖国愛に溢れ、且つ市民的な国歌への愛着を願う」とのラングの声明文が記載され、誕生の詳細な歴史をはじめ歌詞や楽譜はもとより、多数ある編曲を漏れなく収録したCDも添えられた。

編曲のなかでは、国家行事などで最も演奏されるベルリオーズの荘重なメロディーからチャイコフスキーやシューマン、ドビュッシーに加え、1975年に人気ミュージシャン、セルジュ・ゲンスブールが発表して大スキャンダルになったレゲエ・バージョンも収録されている。

ラングは「『ラ・マルセイエーズ』の運命は独特だ。軍歌であり革命歌であり、共和国の象徴だ」と総括している。つまり、「ラ・マルセイエーズ」はフランス人の好戦的な性格の具現化であり、フランス人にとっては永遠なり、というわけだ。

サッカー日本代表とラグビー日本代表の差

Getty logo

関連する投稿


【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

米軍では最も高価で大切な装備は“軍人そのもの”だ。しかし、日本はどうであろうか。訓練や災害派遣で、自衛隊員たちは未だに荷物と一緒にトラックの荷台に乗せられている――。こんなことを一体、いつまで続けるつもりなのか。


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


自衛隊の特定秘密不正の多くは政令不備、いますぐ改正を!|小笠原理恵

自衛隊の特定秘密不正の多くは政令不備、いますぐ改正を!|小笠原理恵

潜水手当の不正受給、特定秘密の不正、食堂での不正飲食など、自衛隊に関する「不正」のニュースが流れるたびに、日本の国防は大丈夫かと心配になる。もちろん、不正をすれば処分は当然だ。だが、今回の「特定秘密不正」はそういう問題ではないのである。


日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

今年の政治における最大のニュースは、10月の衆院選での与党過半数割れであると思う。自民党にとって厳しい結果であるばかりか、これによる日本の政治の先行きへの不安や、日本の昨年の名目GDPが世界第4位に落ちたことから、経済面においても日本の将来に悲観的な観測をお持ちの方がいらっしゃると思う。「先行きは暗い」とおっしゃる方も多くいる。一方で、今年決定したことの中では、将来の日本にとても希望が持てるものが含まれている――。


「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

衆院選で与党が過半数を割り込んだことによって、常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した――。このような厳しい状況のなか、自民党はいま何をすべきなのか。(写真提供/産経新聞社)


最新の投稿


【今週のサンモニ】コメの生産性向上と輸入自由化を目指せ|藤原かずえ

【今週のサンモニ】コメの生産性向上と輸入自由化を目指せ|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


日本国は宗教に冷淡|上野景文(文明論考家)

日本国は宗教に冷淡|上野景文(文明論考家)

統一教会への解散命令で、政教分離のあり方に注目が集まっている。 日本の政教分離は、世界から見てどうなのか――。


From Hope to Hostility: Conservative Party of Japan Faces Growing Backlash|Jason Morgan and Kenji Yoshida

From Hope to Hostility: Conservative Party of Japan Faces Growing Backlash|Jason Morgan and Kenji Yoshida

Political conservatives in Japan have entered into a season of re-sorting.


【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

米軍では最も高価で大切な装備は“軍人そのもの”だ。しかし、日本はどうであろうか。訓練や災害派遣で、自衛隊員たちは未だに荷物と一緒にトラックの荷台に乗せられている――。こんなことを一体、いつまで続けるつもりなのか。


【今週のサンモニ】「過激な平和主義者」の面目躍如、日本学術問題報道|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「過激な平和主義者」の面目躍如、日本学術問題報道|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。