【読書亡羊】中国軍人の危険な書、なぜ「台湾統一」の項は削除されたのか  劉明福『中国「軍事強国」への夢』(文春新書)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「アメリカが日中海戦を計画している」

中国の軍人による書籍が日本で刊行され話題になることはこれまでにもあった。最も有名なのは2001年に刊行され、多くの論考に引用されながら絶版扱いでプレミア価格のついていた喬良・王湘穂著『超限戦』(共同通信社)だろう。2020年に角川新書から新書版が刊行されている。

また喬良は『帝国のカーブ 「超限戦」時代に見るアメリカの「金融戦」の本質』(KADOKAWA)も邦訳されたばかりだ。

帝国のカーブ 「超限戦」時代に見るアメリカの「金融戦」の本質

あるいは2021年に邦訳版が出版された龐宏亮『知能化戦争』(五月書房新社)も中国軍のAI化、中国が考える「未来の戦争」予測として耳目を集めた。脅威の度合いを増している中国軍だからこそ、軍人たちが何を考え、軍のどんな将来を思い描いているかは日本の読者にとっても知りたい内容になっているということだ。

そして劉の『中国「軍事強国」の夢』を読んでいると、やはり我々が思っているのとはすべての因果関係が逆転した思考や世界観を持っていることに気づかされる。

日本から見れば「中国が海洋へ競り出してきて周辺に圧力をかけている」「中国こそが認知戦を展開し、自国に有利な状況を作り出そうとしている」としか思えないのだが、彼らにとってはそうではない。「中国は押し込められているのであり、中国こそが西側諸国の認知戦のターゲットにされている」という認識なのだ。

そうした認識に基づくと、日米の台湾有事や尖閣を巡る紛争シミュレーションなども中国にとっては「米国による日中東シナ海海戦の綿密な計画」となってしまうのである。

こうしたナラティブに引っ張られてしまいそうな人は日本国内にもまだまだ存在しそうではあるが、劉が否定的な「平和主義者」に重なるだろうし、「弱小で被害者としての中国」「強大で加害的なアメリカ」という構図から親中・反米的な態度を取るような人も劉からは敬遠されそうである。

中国軍人が観る「人に優しい」新たな戦争 知能化戦争

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