北朝鮮のアニメが刷り込むナラティブ
ではその後の北朝鮮アニメは何を題材にしているかというと、「北朝鮮版三国志」のような歴史ものに加え、地主を批判するもの(悪者は溺死のパターンが散見される)や、一種の教訓を教えるようなもの、食料問題の啓発のために作られたアニメもある。
一冊を通じて眺めていると、過去の作品は(初めて見たはずなのに)どこか懐かしさを覚えるのも確かである。
日本でもかつては教育テレビ(現在はEテレ)で人形劇が放送されていたし、悪人が因果応報でひどい目に遭うような教訓を教えるものには「まんが日本昔ばなし」があった。
今でもネット上には「日本昔ばなし トラウマエピソード」として、子供に見せるには辛辣すぎる、恐怖のストーリーが紹介されている。「やっぱり欲のままに行動してはいけないんだ」「人を呪わば穴二つ、とはこのことか」など、見れば子供ながらに人の世の常を知ることとなる。
こうした作品が好きであるか否かに限らず、「多くの人が子供の頃に見ていた」作品は、ある意味で、どの国であっても国民に一つのナラティブ(物語)を形成するツールになる。社会に対する価値観や、国民性を形成する一面があるのだ。
その点では共アニも変わらない。ただしそれが民話など自然に人々の間で語り継がれてきたものではなく、強烈な政治統制を受けている点で全く異なるのだが、これはまさに「ナラティブ」の両面性、つまり個人個人の間の共感性や共通認識を作ることに資する一方、政治が国民に押し付けたい価値観を刷り込む道具にもなり得ることを示している。
韓流ドラマというソフトパワー
「韓国ドラマを見たら銃殺刑」
2020年に北朝鮮で制定された「反動思想文化排撃法」にはそう定められているという。北朝鮮に不時着してしまった韓国の財閥令嬢と、北朝鮮の軍人が恋に落ちる『愛の不時着』は日本でも人気を博したが、もちろん北朝鮮では禁止。まさに命がけの視聴となる。
だがそれでも韓国ドラマは北朝鮮国内の富裕層を中心に、闇市などを通じてひそかに広まっている。まさに「ソフトパワー」というべきで、これが北朝鮮の独裁体制を打破するツールになり得るのだという。
一方で本書でも紹介されているように、2023年には「え、これは韓国ドラマでは?」と思うような演出の実写パートがある北朝鮮歴史ファンタジーアニメ(『好童王子と楽浪王女』)も制作・放映された。
CGアニメにしても驚きの進化を遂げており、一見しただけでは「おや、ピクサー・アニメスタジオ制作かな?」と見まがうようなポップなキャラクターが活躍する作品もある。