【読書亡羊】前代未聞! 北朝鮮アニメの全貌が明らかになるまさかの一冊  大江・留・丈二『北朝鮮アニメ大全――朝鮮民主主義人民共和国漫画映画史』(合同会社パブリブ)

【読書亡羊】前代未聞! 北朝鮮アニメの全貌が明らかになるまさかの一冊 大江・留・丈二『北朝鮮アニメ大全――朝鮮民主主義人民共和国漫画映画史』(合同会社パブリブ)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


北朝鮮のアニメが刷り込むナラティブ

ではその後の北朝鮮アニメは何を題材にしているかというと、「北朝鮮版三国志」のような歴史ものに加え、地主を批判するもの(悪者は溺死のパターンが散見される)や、一種の教訓を教えるようなもの、食料問題の啓発のために作られたアニメもある。

一冊を通じて眺めていると、過去の作品は(初めて見たはずなのに)どこか懐かしさを覚えるのも確かである。

日本でもかつては教育テレビ(現在はEテレ)で人形劇が放送されていたし、悪人が因果応報でひどい目に遭うような教訓を教えるものには「まんが日本昔ばなし」があった。

今でもネット上には「日本昔ばなし トラウマエピソード」として、子供に見せるには辛辣すぎる、恐怖のストーリーが紹介されている。「やっぱり欲のままに行動してはいけないんだ」「人を呪わば穴二つ、とはこのことか」など、見れば子供ながらに人の世の常を知ることとなる。

こうした作品が好きであるか否かに限らず、「多くの人が子供の頃に見ていた」作品は、ある意味で、どの国であっても国民に一つのナラティブ(物語)を形成するツールになる。社会に対する価値観や、国民性を形成する一面があるのだ。

その点では共アニも変わらない。ただしそれが民話など自然に人々の間で語り継がれてきたものではなく、強烈な政治統制を受けている点で全く異なるのだが、これはまさに「ナラティブ」の両面性、つまり個人個人の間の共感性や共通認識を作ることに資する一方、政治が国民に押し付けたい価値観を刷り込む道具にもなり得ることを示している。

まんが日本昔ばなし

韓流ドラマというソフトパワー

「韓国ドラマを見たら銃殺刑」

2020年に北朝鮮で制定された「反動思想文化排撃法」にはそう定められているという。北朝鮮に不時着してしまった韓国の財閥令嬢と、北朝鮮の軍人が恋に落ちる『愛の不時着』は日本でも人気を博したが、もちろん北朝鮮では禁止。まさに命がけの視聴となる。

だがそれでも韓国ドラマは北朝鮮国内の富裕層を中心に、闇市などを通じてひそかに広まっている。まさに「ソフトパワー」というべきで、これが北朝鮮の独裁体制を打破するツールになり得るのだという。

一方で本書でも紹介されているように、2023年には「え、これは韓国ドラマでは?」と思うような演出の実写パートがある北朝鮮歴史ファンタジーアニメ(『好童王子と楽浪王女』)も制作・放映された。

CGアニメにしても驚きの進化を遂げており、一見しただけでは「おや、ピクサー・アニメスタジオ制作かな?」と見まがうようなポップなキャラクターが活躍する作品もある。

関連する投稿


【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは  謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは 謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】雑誌「冬の時代」が過ぎて春が来る?  永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】雑誌「冬の時代」が過ぎて春が来る? 永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】世直し系YouTuberは現代の鼠小僧なのか  肥沼和之『炎上系ユーチューバー』(幻冬舎新書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】世直し系YouTuberは現代の鼠小僧なのか 肥沼和之『炎上系ユーチューバー』(幻冬舎新書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】戦後80年目の夏に考えるべき「戦争」とは  カルロ・マサラ『もしロシアがウクライナに勝ったら』(早川書房)|梶原麻衣子

【読書亡羊】戦後80年目の夏に考えるべき「戦争」とは カルロ・マサラ『もしロシアがウクライナに勝ったら』(早川書房)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


教科書に載らない歴史|なべやかん

教科書に載らない歴史|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!


最新の投稿


【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】

【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは  謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは 謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】

TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】

悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『悲劇の空母「飛龍」の無念|上垣外憲一【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】「再エネ教」の信者の集会|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「再エネ教」の信者の集会|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。