「軍事力」と「攻撃力」を混同
田中優子氏:私は麻生氏の発言をいつも注目している。なぜなら政府が表立って言えない自民党の本音を言ってしまうから。今回もそういうことと思う。「抑止力」「防衛力」という言葉を使っているが、明らかに「軍事力」のことを言っている。
一方で政府は「台湾は中国の一部である」と言っている。なのに、それを言ってしまったらほかの国の内部的な問題に干渉していると受け取られても仕方がない。でも、これは自民党の本音と受け止めている。
日本という主権国家にとって、「内閣の一員でない麻生氏」くらい貴重な人物はいません。
麻生氏は、米国のジョン・ボルトンと同様、ならず者国家に対して、政府が表立っては言えない「強制力による威嚇」をフリーハンドに宣言することで、極めて平和裏に戦争抑止に貢献していると言えます。日本にはオリオールズの藤浪晋太郎投手のような荒れ球の剛速球を投げる人材が必要なのです。
さて、田中氏は「抑止力」「防衛力」「軍事力」を同一視していますが、このような勘違いこそが日本の防衛行政を歪めてきました。
「抑止力」は覇権国家からの侵略が発生する確率を低下させる「セキュリティ」を確保する「軍事力」の一部であり、温存されることで真価を発揮するものです。
一方、「防衛力」は覇権国家からの侵略が発生した時に被害を低下させる「セーフティ」を確保する「軍事力」の一部であり、侵略が発生した時に行使することで真価を発揮するものです。
ここで(侵略のリスク)=(侵略の発生確率)×(侵略発生時の被害)なので、抑止力と防衛力を高めることによって、侵略のリスクを低減することができます。
「軍事力」には他に「攻撃力」がありますが、日本はこれを行使することができません(反撃力の行使は可能です)。田中氏のような過激なパシフィストは、大衆に「軍事力」と「攻撃力」を混同させて、「抑止力」「防衛力」の整備を問題視させるプロパガンダを展開しているのです。
山極壽一氏:アメリカは軍事介入をするという発言をしなかった。非常に曖昧な表現を使ってきた。その時に合意したのは「中国は一つ」である。もう一つは「平和的な解決を望む」だ。アメリカはバイデンの失言以来、火消しに努めていたのに、なんで日本がこんなに前のめりになっているのかわからない。(中略)こんなに政府の態度が激変するのはなぜか。本当に疑う。何か起こっているね
先述したように、日本は完全に曖昧戦略を取っています。麻生氏は内閣の一員ではありません。むしろ曖昧戦略と言いながら、先鋭的な戦略をとっているのは米国です。
台湾有事の軍事的関与を肯定した米軍の最高司令官であるバイデン大統領の発言を「無意識な失言」と断定することに思い込みがあります。バイデン氏の発言は「意図的な失言」とも受け取れます。実際、中共に対して大きな威嚇となっています。
ペロシ米下院議長の台湾訪問も極めて重大な威嚇に他なりません。日本では【政府 government】と言えば、【内閣 cabinet】を意味しますが、英米系の国では【三権 three branches of government】の総称を意味します。つまり、ペロシ議長の台湾訪問は「米国政府」の代表の訪問なのです。
しかも、米軍の海外派兵を正式に承認をするのは米国議会であり、文民統制に関与しています。
そんな中で、山極氏が「日本が前のめりになっている」と考えるのは妄想であり、「何か起こっている」と考えるのは明確な陰謀論です。