「すごいぞ!リニア」を盛り上げよ
10周年を迎えた富士山の世界文化遺産登録を記念した静岡県の看板(筆者撮影)
受け身であるJR東海は、燕沢の残土置き場に問題がないことを丁寧に説明したが、簡単には解決しないだろう。
たとえ、燕沢の残土置き場の問題が解決に向かったとしても、また違う新たな問題が起きる可能性のほうが高い。
どうすればいいのか?
リニア計画実現へ向けて大きな世論をつくらなければ、いつまでたっても問題は解決しないのだ。
筆者の素朴な疑問は、「なぜ、新幹線ではなく、リニアなのか?」「リニアは本当に必要なのか?」「リニアのどこがそんなにすごいのか?」である。
JR東海の通り一遍の説明では、どうも納得できないのだ。
2025年開催の大阪万博の海外パビリオン建設の遅れなどが指摘される中で、大手広告代理店の電通の離脱が万博開催に大きな影響を与えていると報道された。電通の力がいかに大きいのかを認識させられた。
全く知られていないが、電通と言えば、富士山を世界文化遺産に登録させた最大の功労者が何と電通である。
筆者は、1992年当時から富士山の世界遺産運動に関わってきた。もともとは、富士山の過剰利用などの問題を取材していく中で、世界遺産登録を目指す運動とすることで、富士山の保全を国民全体の問題にしようとした。
1995年9月15、16日に、「富士山の文化的景観の可能性」などをテーマとする富士山国際フォーラムを静岡県で開催した。
ユネスコ世界遺産センター所長、世界自然遺産を審査するIUCNの責任者、世界文化遺産を審査するICOMOSの責任者らをフランス、スイス、オーストラリア、スペインなどから招請して、富士山の世界遺産について議論することで、この運動は一応の決着をした。
結論は、「富士山は世界遺産にふさわしいが、日本はユネスコからの財政支援を受けないのだから、国内の環境問題さえ解決すれば、世界遺産登録に何ら問題ない」だった。当然、環境問題の解決のハードルは非常に高かった。
その後、約10年がたち、電通が2004年頃から、静岡新聞社、山梨日日新聞社に声を掛けて、新たな富士山の世界文化遺産登録推進運動をスタートさせた。認定NPO法人富士山を世界遺産にする国民会議を中曽根康弘元総理大臣、文化庁、静岡県、山梨県の両知事ら各界の代表者を発起人として設立した。
当然、電通は文化遺産にすれば環境問題保全へのハードルが低くになることを承知して、電通主導のさまざまな活動を行った。
2013年6月、富士山はめでたく世界文化遺産に登録されている。実際には、環境問題の解決など全く行わなかったが、それでも世界文化遺産に登録されたのは、電通の貢献が大きい。民間企業だから、世界遺産をタネに儲けることも忘れなかった。
世界遺産登録という目的は達成されたのだから、川勝知事をはじめ地元は万万歳である。(※世界遺産登録の報に、実際、川勝知事はバンザイした)
JR東海は電通の力を借りたほうがよいのではないか。
電通が触媒となり、さまざまな人をつなぎ、リニア計画推進のさまざまなPRをしていけば、リニアへの理解が深まり、世論は盛り上がるはずだ。
静岡市立図書館で、「リニア」で検索すると、反リニアの書籍しかヒットしないのだ。『すごいぞ!リニア』といった子供向けの書籍を読んでみたいが、残念ながら、そのような書籍は出版されていない。
JR東海が本当にリニア計画の早期実現を目指すならば、電通の力を借りたほうがいい。『すごいぞ!リニア』を盛り上げる電通の力に期待したい。
「静岡経済新聞」編集長。1954年静岡県生まれ。1978年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。政治部、文化部記者などを経て、2008年退社。現在、久能山東照宮博物館副館長、雑誌『静岡人』編集長。著作に『静岡県で大往生しよう』(静岡新聞社)、『家康、真骨頂、狸おやじのすすめ』(平凡社)などがある。