【リニア】川勝知事がやるべき、たった一つのこと|小林一哉

【リニア】川勝知事がやるべき、たった一つのこと|小林一哉

6月30日、静岡新聞に、「知事 JR社長に会談要望 リニア解決へ『2人だけで』 県議会答弁」という見出しの大きな記事が掲載された。 しかし、当日の議会を傍聴していた筆者には、そんな内容の発言はなかった。 静岡新聞は、なぜこのような記事を出したのか――。


山梨県知事の「援護射撃」

リニア期成同盟会で長崎知事の静岡空港新駅に触れた発言を聞く丹羽JR東海社長(東京都内、筆者撮影)

このため、蓮池議員は再々質問を行い、「トップ会談を形はどうあれ、知事から正式に申し入れてはどうか」と、最後には川勝知事にトップ会談のみの開催要望をうながした。
 
ところが、川勝知事は「それが断られることもありえます。ですから、間接的に伝えている。相手次第という、いまは状態になっている」などとトップ会談を率先して行う意思のないことまで明らかにした。
考えればわかるが、川勝知事がトップ会談を要望して、一日も早く静岡工区着工を望むJR東海が断るはずもない。当然、そんなことは百も承知の上での回答である。

つまり、相手方のJR東海が会いたいと言ってくるのならば、会ってやってもいいという大物ぶった態度を取っているだけである。会談を要望するならば、自ら声を掛ければいいはずだ。
それなのに、「知事 JR社長に会談要望」という無茶苦茶な見出しの記事が掲載された。
 
それは一体、なぜなのか?
 

5月31日、東京都内で開かれたリニア建設促進期成同盟会総会で、東海道新幹線の「静岡空港新駅」について研究会で可能性を検討していくことが決まった。

現在、ほとんど話題にもならない「静岡空港新駅」に再び、スポットが浴びた。6月29日の県議会代表質問の2日前、牧之原市の杉本喜久雄市長が27日の会見で「(空港新駅が話題に上がったことは)大歓迎だ」と述べたばかりだった。
 
山梨県の長崎幸太郎知事が「期成同盟会」総会で、「静岡空港新駅」整備構想に触れて、「国際空港である静岡空港だからこれまでにない画期的な新駅となる。広域にメリットが波及する」などと意義を強調した。

新幹線新駅の設置で、日本経済発展の未来を担うインバウンド(訪日外国人)需要を取り込むのに最もふさわしい空港になるという発想だった。

杉本市長だけでなく、大井川流域の市町長はすべて空港新駅設置を強く望んでいる。静岡県への“援護射撃”とも取れる長崎知事の発言への期待は大きい。

川勝知事は、これまで何度も空港新駅設置を要望してきた。過去には、「待避線を前提に450億円ぐらい、待避線のない形でほぼ250億円と試算している。受益者負担であることを想定して、新駅の必要性を訴えている」など地元負担による「請願駅」であることも明らかにした。

JR東海がリニア沿線の各県駅約800億円を地域振興策として負担する代わりに、各県はリニア建設の円滑な推進のために全面的に支援している。

リニア駅というメリットがない静岡県には不満であり、川勝知事は過去にはJR東海に向かって、「誠意を示せ」と厳しい物言いをした。

「静岡空港新駅」設置を決めよ!

 川勝知事が、リニアトンネル工事の水環境問題をやり玉に挙げて、JR東海の対応を厳しく批判した背景には、落としどころが空港新駅設置を認めさせることだと関係者は指摘する。

川勝知事の腹の中には、リニア通過県なのだから、空港新駅設置をJR東海が認めるのが当然という思いが強かったのだろう。

今回、5月31日の「期成同盟会」で、長崎知事は、リニア、東海道新幹線を中心とする高速交通の将来像に「静岡空港新駅」設置を盛り込むという、静岡県の思いに沿った発言をした。
ところが、一日も早い静岡工区の着工を目指すJR東海だが、「静岡空港新駅」設置に対しては、「条件が整っていない。難しい」のこれまでの姿勢を変えることなく、首を縦に振る可能性はいまのところ全くない。
「期成同盟会」での長崎知事の発言を踏まえて、丹羽社長は会見であらためて、空港新駅設置を否定した。

そんな中、県議会で蓮池議員は、川勝知事に丹羽社長との“トップ会談”をうながしたのだ。それも川勝知事から提案すべきであり、大井川流域市町長がオブザーバー参加すべきというのだ。
 
川勝知事が消極的な姿勢を見せているのに、静岡新聞は「知事 JR社長に会談要望 リニア解決へ『2人だけで』」という記事を掲載した。
 
実際のところは、川勝知事はトップ会談提案を否定している。
 
トップ会談となれば、リニア問題だけでなく、静岡空港新駅設置も議題に上がると考えるのがふつうである。
 
大井川流域の市町長らの要望を踏まえれば、当然のことだ。それだけでなく、いつまでもリニア問題を長引かせれば、静岡県の評価は地に落ちる。
 
トップ会談はこれまでのように静岡県庁で、全面公開で行う必要はない。単身でこっそりと、川勝知事がJR東海本社に出向き、リニア問題解決とともに、「静岡空港新駅」設置を決めてくるべきである。
 
大井川流域全体が望む“快挙”を大々的に発表すればいい。しかし、現状を見れば、川勝知事への期待はしぼむばかりである。

だから、川勝知事に政治家としての本来の役割を果たすべき、と静岡新聞は事実とは違う記事を掲載して、トップ会談をうながしたのだろう。

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