【読書亡羊】『土偶を読む』騒動を知っていますか 縄文ZINE編『土偶を読むを読む』(文学通信)

【読書亡羊】『土偶を読む』騒動を知っていますか 縄文ZINE編『土偶を読むを読む』(文学通信)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


「恣意的な資料の選択」

本欄には土偶の写真を掲載できないので、詳しくは本書をお読みいただくしかないのだが、特に驚いた事例を一つ取り上げたい。

それは『土偶を読む』で表紙にも「栗にそっくり!」(シャレではない)と掲載されている、中空土偶についてだ。

並べてみれば、確かに栗に似ているように見える。ちょっと尖った頭に、楕円形の輪郭。「縄文人が主食としていた栗をかたどった」と言われれば、「確かに身近なものをモチーフとして取り入れることはあるかも」と感じてしまう。

ところがこの土偶、実は上から見ると大きな穴が二つ開いている。なんとこれは、頭にラッパのようについていた突起が取れたものだと推測されているのだ。というのも、顔つきまで「栗土偶」にそっくりの、突起のある別の土偶が存在しており、「栗土偶」もその類型で本来は突起があったとみられているというのだ。

当然、突起のある土偶は、栗には全く似ていない。「中空土偶は栗がモチーフ」とした竹倉氏は、こうした類似の(しかし突起のある)土偶を知らなかったのだろうか。

『土偶を読むを読む』の望月氏はこう述べている。

(突起のある)類例を知らなかったというのであれば、明らかな調査不足で、もし知っていて触れなかったのだとしたら、あまりにも恣意的な資料の選択、写真の比較と言えないだろうか。

土偶を読む――130年間解かれなかった縄文神話の謎


『土偶を読む』で竹倉氏が「土偶は植物モチーフであることが明らかになった!」として挙げた事例は、事程左様に牽強付会、悪質な我田引水によるものばかりだという。

土偶を正面からしか見ていない、土偶が作られた時期にその植物は食用にされていない(生えていない)など、竹倉説を覆す材料がいくらでもある。

こうした材料まで考慮して、反証材料があって初めて、論は論として成り立つ。だが、竹倉氏がこうした指摘に反証材料を提供している節はない。

関連するキーワード


書評 梶原麻衣子 読書亡羊

関連する投稿


【読書亡羊】死せる安倍、生ける自民党を走らす  御厨貴・芹川洋一『令和政権論』(日経プレミアシリーズ)|梶原麻衣子

【読書亡羊】死せる安倍、生ける自民党を走らす 御厨貴・芹川洋一『令和政権論』(日経プレミアシリーズ)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC  スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】九段周辺は「戦争の記憶の貯蔵庫」に溢れている  林英一『戦争記憶の歩き方』(彩流社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】九段周辺は「戦争の記憶の貯蔵庫」に溢れている 林英一『戦争記憶の歩き方』(彩流社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】「信じるか否かはあなた次第」の時代を乗り切るための一冊  松村一志『科学否定論はなぜ人を惹きつけるのか』(ちくま新書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「信じるか否かはあなた次第」の時代を乗り切るための一冊 松村一志『科学否定論はなぜ人を惹きつけるのか』(ちくま新書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】テック右派が抱く焦燥感の正体とは  カーティス・ヤーヴィン『ネオ君主論』(PHP)|梶原麻衣子

【読書亡羊】テック右派が抱く焦燥感の正体とは カーティス・ヤーヴィン『ネオ君主論』(PHP)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


【今週のサンモニ】斎藤幸平氏の陰謀論と正論|藤原かずえ

【今週のサンモニ】斎藤幸平氏の陰謀論と正論|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】張本さんに「あっぱれ!」|藤原かずえ

【今週のサンモニ】張本さんに「あっぱれ!」|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】農水省とJAの癒着|藤原かずえ

【今週のサンモニ】農水省とJAの癒着|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】ICC問題、石破元総理の高市批判は明らかに間違っている|藤原かずえ

【今週のサンモニ】ICC問題、石破元総理の高市批判は明らかに間違っている|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC  スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!