日本共産党の大いなる矛盾「自衛権は認めるが、常備軍は認めない」|小笠原理恵

日本共産党の大いなる矛盾「自衛権は認めるが、常備軍は認めない」|小笠原理恵

日本共産党が一貫した護憲政党であったと考えている人は多いが、実は憲法制定時に猛反対したのが共産党である。つまり、「憲法9条を守れ!」ではなく、「憲法9条を変えろ!」と主張していたのだ。なぜ共産党はこれを転換したのか。(サムネイルは日本共産党公式YouTubeより)


護憲政党・共産党に投げかけた質問

日本国憲法は1947年5月に施行されてから76年目を迎えた。施行当時から社会情勢や安全保障環境は劇的に変化をしている。法律と同じく憲法も時代に合わせて見直しが必要だが、日本国憲法改正のハードルは高く、一度も改憲されたことはない。

憲法は国の大黒柱であり根幹だ。憲法が現状と乖離すれば、国の土台そのものが揺らぐことになる。

特に近年の安全保障環境の変化は激しく、台湾有事に備えた法整備、防衛力強化が課題である。自衛隊は諸外国の「軍」と違い、憲法でがんじがらめに縛られ、実力行使が難しい。憲法改正は避けて通れない道だ。

2007年、憲法改正の手続きを定めた国民投票法が成立し、衆参両院に「憲法審査会」がそれぞれ設置された。この憲法審査会は憲法に関わる議論や憲法改正原案の審査等を担う。さらに憲法改正原案を国会に提出することもできる重要な専門機関でもある。戦後、国会では、長い間、憲法を議論するための専門の機関がなかった。

3月29日、衆院憲法審査会に関し「毎週開催はサルのやることだ。蛮族の行為、野蛮だ」と立憲民主党の小西洋之議員が発言し、参院憲法審査会の野党筆頭幹事から更迭された。改憲派と護憲派の駆け引きが続くなか、4月20日、衆院憲法審査会で自民党・務台俊介議員が斬新な質問を護憲政党・日本共産党に投げかけた。

共産党はなぜ護憲政党に転換したのか

そもそも、共産党が一貫した護憲政党であったと考えている人が多く、地元の有権権者に話をしてもほとんどの人がそのことを知らないと務台氏は発言の冒頭部分で説明し、こう続けた。
 
「核武装を放棄し大幅軍縮を実現した挙句、ロシアの侵略を招いたウクライナ戦争を目の当たりにするなかで、77年前の野坂参三・日本共産党議長の指摘(著者注:「憲法9条は一個の空文にすぎない。我が国の自衛権を放棄して民族の独立を危うくする危険がある。それゆえに我が党は民族独立のためにこの憲法に反対しなければならない」)は、今日の観点から見て実は慧眼のようにも思われます」

「だからこそ共産党の考え方の転換の背景を理解させていただくことは今後の憲法審査会の噛み合った憲法議論の土台になると思います」
 
「一昔前の共産党は自衛のための軍隊を持つことは国家にとって当然の権利だと考えていたけれども、東西冷戦のなかで米国が共産主義の脅威に対して日本を極東における共産主義の防波堤とすべく自衛隊をその実力組織として位置づけるなかで、当時の共産党は自衛隊の存在は日本における共産主義革命の支障となると考え、その存在を違憲無効と位置づけるに至った経緯があるという説明を知り合いの歴史家から受けました」

「それが果たして正しい理解なのか? それこそ当事者である共産党の見解をしっかり伺いたく存じます」

ロシアのウクライナへの軍事侵攻により、改めて国連安保理が機能不全に陥っていることが白日の下にさらされた。民族の独立を真摯に考え、自衛権を認めよと過去に共産党が考えていたのなら、再び変わる可能性があるのではないかという建設的な質問だった。

自民党、日本維新の会、国民民主党は憲法改正の提言を公表し、各々参議院選挙においても憲法改正に言及している。国民の憲法の在り方への意識が高まっている今、建設的な憲法議論で具体的な検討の段階という、次のステージに移行する調整をお願いしたいと務台氏は結んでいる。

関連する投稿


変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

自衛隊員の職務の性質上、身体的・精神的なストレスは非常に大きい。こうしたなかで、しっかりと休息できる環境が整っていなければ、有事や災害時に本来の力を発揮することは難しい。今回は変わりつつある現場を取材した。


終戦80年に思うこと「私は『南京事件』との呼称も使わない」|和田政宗

終戦80年に思うこと「私は『南京事件』との呼称も使わない」|和田政宗

戦後80年にあたり、自虐史観に基づいた“日本は加害者である”との番組や報道が各メディアでは繰り広げられている。東京裁判や“南京大虐殺”肯定派は、おびただしい数の南京市民が日本軍に虐殺されたと言う。しかし、南京戦において日本軍は意図的に住民を殺害したとの記述は公文書に存在しない――。


【独占告発!】代々木の不動産王 日本共産党|山村明義【2025年8月号】

【独占告発!】代々木の不動産王 日本共産党|山村明義【2025年8月号】

月刊Hanada2025年8月号に掲載の『【独占告発!】代々木の不動産王 日本共産党|山村明義【2025年8月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【天下の暴論】政治家として、人間として全く成長していない石破総理|花田紀凱

【天下の暴論】政治家として、人間として全く成長していない石破総理|花田紀凱

28年間、夕刊フジで連載され、惜しまれつつ終了した「天下の暴論」が、Hanadaプラスで更にパワーアップして復活!


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


最新の投稿


【今週のサンモニ】「再エネありき」「反原発ありき」の時代は終わった|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「再エネありき」「反原発ありき」の時代は終わった|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

自衛隊員の職務の性質上、身体的・精神的なストレスは非常に大きい。こうしたなかで、しっかりと休息できる環境が整っていなければ、有事や災害時に本来の力を発揮することは難しい。今回は変わりつつある現場を取材した。


【読書亡羊】雑誌「冬の時代」が過ぎて春が来る?  永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】雑誌「冬の時代」が過ぎて春が来る? 永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


昭和天皇と出光佐三の〝黙契〟|上島嘉郎【2025年9月号】

昭和天皇と出光佐三の〝黙契〟|上島嘉郎【2025年9月号】

月刊Hanada2025年9月号に掲載の『昭和天皇と出光佐三の〝黙契〟|上島嘉郎【2025年9月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


斎藤兵庫県知事を叩く消費者庁の正体|池田良子【2025年9月号】

斎藤兵庫県知事を叩く消費者庁の正体|池田良子【2025年9月号】

月刊Hanada2025年9月号に掲載の『斎藤兵庫県知事を叩く消費者庁の正体|池田良子【2025年9月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。