「水と空気とコンテナ輸送」
「日本の周辺で有事が起き、海上交通網が普段通り働かなくなれば、わずか3日で日本は食糧難に陥る。国民は唯一、自給率の高いコメを食べるより他ない」
台湾有事の可能性が指摘される中、懸念されるのが、シーレーンの問題だ。台湾海峡が海上封鎖されるだけでなく、日本を含む周辺地域にも影響が及ぶのは間違いない。
では現在の海上輸送はどのような状況にあるのか。これを「コンテナ」から見たのが、松田琢磨『コンテナから読む世界経済』(KADOKAWA)だ。
筆者は拓殖大学商学部教授で、海運経済学、物流を専門とする。海上を含む物流網は世界経済に物資をいきわたらせる血管のような役割を果たしており、そのルートを流れる物資=血液の多くはコンテナに収められる。本書の副題が〈経済の血液はこの「箱」が運んでいる!〉なのはそういうわけだ。
サプライチェーンの重要性はコロナ禍以降、一般にも知られるようになった。その「チェーン」の具体例が、海上輸送船であり、コンテナなのである。
そのため、海運会社の関係者の間では「水と空気とコンテナ輸送」という言葉があるほど、生活に必要不可欠な存在。
しかしそうでありながら、一般には「写真やニュース映像でしか見たことがない」「普段、意識することがない」存在でもある。そんなコンテナ(輸送)について、本書は初歩から優しく教えてくれる。そしてコンテナを通して知る世界経済の現状からは、日本が直面している厳しい状況も見えてくるのだ。
日本の港は存在感が低下
コンテナは「同じ規格の金属製の箱」を指し、さまざまな荷物を積み込んで箱単位で運ぶ輸送システムをコンテナ輸送という。
そうしたコンテナ船がやってくる港は中国が取扱量で上位の多くを占め、他にシンガポール、韓国などが続く。日本は46位にようやく東京港が登場。1975年には神戸港が世界第3位にいたことを考えれば隔世の差がある。日本の港湾の存在感は年々小さくなっているようだ。
その理由を、本書は「アジアにおける製造業の生産拠点が日本から中国や東南アジアに移った」からだと説明する。そのうえ、運航にかかる日数やコストの短縮を考えると、日本に寄港する機会を減らすことが、「合理的判断」になってしまっているのだ。
「え、でも日本は食糧の多くを輸入に頼っているのでしょう?」と思うかもしれない。実際、日本の港湾全体で、一年間に2000万個ものコンテナが取り扱われているという。
問題は、日本は多くの物資や物品を輸入している一方、日本から輸出するものが減っていることにありそうだ。