どれだけの苦労で信頼を積み上げてきたか
冒頭、筆者の祖父について触れたが、さらに言えば筆者の父は自衛官OBであり、弟は現役自衛官で、親戚にも自衛隊関係者が多くいる。
父は2000年代に入ってから退官したが、当時でも「自衛隊の制服で駐屯地の外を歩くことはできない」と言っていた。2011年の東日本大震災はこれ以上ない災厄ではあったが、多くの自衛官の献身により、自衛隊に対する認識が大きく好転したことは、身内としても喜ばしい。
だからこそあえて言いたいのは、自衛隊を巡る不祥事についてだ。元自衛官の五ノ井里奈さんが行った性的暴行の告発を批判する「自衛隊びいき」もいるようだが、批判されるべきは加害者の側であろう。
もし少しでも反感を覚えたなら、ぜひ本書を読んで頂きたい。発足間もない自衛隊が、国民の理解を得るためにいかに地道な、涙ぐましい努力を重ねたか。沖縄ではいじめに遭いながらも、「それでも自衛隊を記事に取り上げてくれた新聞に感謝する」と述べるOBもいる。災害派遣でPTSDになりながらも、被災者に手を差し伸べ、遺体を収容した自衛官たちがいる。
それを、である。一時のノリで仲間に暴行を加える行為は、被害者本人を傷つけるだけでは済まない。自衛隊への信頼を積み重ねるべく努力してきたすべての自衛官の顔に泥を塗るような行為と言っても過言ではないだろう。
本書を読むと、その意を強くせざるを得ないのである。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。