私事で恐縮だが、私はキリスト教信者だ。その中でも新旧約聖書は間違いのない神の言葉であり信仰と生活の唯一の規範だと信じるプロテスタント福音派だ。イエスは処女マリアから生まれ、死人を生き返らせ、十字架で処刑された3日後に復活した、などと聖書に書かれている超自然的な内容をそのまま信じている。
キリスト教の立場からすると、文鮮明を救い主だと教える旧統一協会の教えは到底受け入れられない。また、日本人は朝鮮支配の原罪があるから韓国に仕えなければならないとする旧統一協会の反日思想に対して、私は日韓関係研究者として歴史的事実に反すると人生をかけて反論してきた。
我が国にはカトリックとプロテスタントを合わせ100万人程度のキリスト教信者がいる。だから、1億2000万人の全人口からすると、100人に1人のごく少数だ。毎週日曜日に教会に集まり神への礼拝を行い、少なくない金額の献金もしている。これらすべては自発的に行っていることだ。信じている内容も行っている行動も、大多数の日本人とはかなり異なっていることを自覚している。その立場から、政府と国会が現在進めている旧統一協会への対応に恐怖を感じている。
信教の自由が侵される
なぜなら、信教の自由という憲法で保障されている大原則によってこれまでできないとされてきたことが、次々とできることにされているからだ。
岸田文雄首相は、宗教法人解散の要件は「刑法の不法行為」(刑事犯罪)だけとしてきた従来の立場を突然変更して、「民法の不法行為」も含まれると国会答弁を修正した。過去に宗教法人の解散命令は2件出されている。地下鉄サリン事件のオウム真理教と霊感商法詐欺事件の明覚寺だが、両者とも代表役員が刑事罰を受けている。しかし、旧統一協会の幹部が刑事罰を受けたことはない。文科省は首相の突然の立場変更を受けて、解散命令を視野に入れた質問権行使の準備をやはり突然開始した。
その上、国会では与野党が旧統一協会被害者を救済することを目的にして、本人に代わって家族などが献金を取り戻せるようにする新法を制定する協議を行っている。
宗教的少数派が感じる恐怖
これらが突然実行される理由は、世論の変化とそれに伴う岸田政権の支持率低下だ。ではなぜ世論が旧統一協会に急に批判的になったのか。誰が見ても許しがたい被害事例が最近明らかになったからではない。安倍晋三元首相へのテロ犯人が20年ほど前に母親の多額の献金によって生活が苦しくなったことで旧統一協会を恨んでいたという情報が奈良県警からリークされた後、ワイドショーを中心とするマスコミが旧統一協会たたきを始めたことが契機になったのだ。
世論が変われば憲法に定められた信教の自由、私有財産処分の自由などの枠組みがいとも簡単に崩れていく。多数派の日本人とはかなり異なる少数派の信仰を持つ私は、それを目撃して、その矛先がいつ私たちに向くかもしれないという恐怖を感じるのだ。(2022.10.31国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)