【読書亡羊】「沖縄の反基地運動をおちょくる風潮」で喜ぶのは誰か 川名晋史編『世界の基地問題と沖縄』(明石書店)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


沖縄を「分断の地」にしてはならない

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本書の「はしがき」で編者の川名氏が述べている通り、沖縄基地問題は容認派・反対派の二項対立となり、膠着・停滞状態にある。さらには「政争の地」となってしまったことで、フェイクニュースや陰謀論も飛び交う状況にある。

こうした混乱の影響は沖縄を含む日本全体を揺るがすだけではなく、東アジアの安全保障環境にも及びかねない。

中国の「分断工作」を懸念する筆者(梶原)の立場からすれば、日本国内で日本人同士が沖縄を巡って、議論の水準に達しない罵り合いやフェイクニュースに基づく独断等々を繰り広げることほど、中国にとって「狙い通り」の展開はないだろうと思われる。

「地政学的に沖縄に基地は必要だ」と思う側こそ、沖縄を「分断の地」として決定づけ、あまつさえ中国の側に押しやるべきではない。

クライブ・ハミルトンは『目に見えぬ侵略』(飛鳥新社)でオーストラリアがアメリカの同盟国の中で最も「弱い環」であったがゆえに中国の浸透工作のターゲットになったと指摘している。日本で言えば沖縄が「弱い環」とみられていることは確実だ。

そして、それは「反基地運動によって政府への攻撃を企てている左翼」だけに責任があるのではない。

「あの門から先は〝日本〟ではない」

筆者は「日本の自立と存続」を重視する保守派(右派)を自認しているが、だからこそ初めて米軍基地を目の当たりにしたときの衝撃を今も覚えている。地元の人がつぶやいた「あの門から先は〝日本〟ではない」という言葉は、今も頭から離れない。

自国の安全保障に責任を負う大人である以上、「反基地運動の拠点に行ってみたけど誰もいませんでしたー!(笑)」と言った類の書き込みが、結果として誰を利するのかくらいは考えて発信すべきだろう。

まずは正しい知識から。

極めて冷静に、相対的に、正しい知識に基づく沖縄基地を捉えられる本書は、まさにうってつけの一冊と言える。

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