【読書亡羊】「沖縄の反基地運動をおちょくる風潮」で喜ぶのは誰か 川名晋史編『世界の基地問題と沖縄』(明石書店)

【読書亡羊】「沖縄の反基地運動をおちょくる風潮」で喜ぶのは誰か 川名晋史編『世界の基地問題と沖縄』(明石書店)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


日増しに高まる中朝露の軍事的脅威

世界の基地問題と沖縄

米軍はこれまで主に対北朝鮮を念頭に韓国に駐留してきたが、これからは対中国の観点からも、重要な拠点となる。韓国へのTHAAD配備が「対北朝鮮用である」という建前を中国が疑うのもそれゆえだ。在韓米軍の動向は、日本の安全保障にも多大な影響を及ぼす。

また、「沖縄に韓国の活動家が入り込んで、反基地運動をやっている!」という話は保守側ではよく聞かれ、確かに親北朝鮮的なスタンスの活動家によるものであるならば警戒は必要だ。

他方、相手の手法を逆手にとって、日韓の保守側が「米軍」や日米韓の連携を念頭に連携する、という発想も現実路線を取る保守だからこそ、持ちうるのではないだろうか。

もちろん日韓間に信頼関係が構築できなければ話もできないわけだが、現実として中朝露の軍事的圧力は日々、増している。安倍政権が2015年に行った「日韓慰安婦合意」も、中朝という脅威を前に安全保障上の必要性から日韓関係をリセットするものだった。

日独比較に大きな意味が

同じ「敗戦国」であるドイツの場合はどうか。欧州の冷戦後は米軍基地そのものが縮小へ向かい、最大30万人が駐在していた米軍の75%は撤退。そうした状況を追いかける形で、反基地運動や基地問題も環境問題以外は収束傾向にあるという。

基地における環境問題とは、沖縄でも問題になっている有機フッ素化合物を含む消火剤(AFFF)高濃度有機フッ素化合物(PFASs)などが基地から周囲に漏れ出し、環境を汚染しているという問題で、ドイツはNATO軍地位協定・補足協定で環境保護について明確な基準を設けたという。

日本でも2015年に日米地位協定において環境補足協定が制定されたが、ドイツのものとは違って「互恵的ではない」という。なぜそうなってしまうのか、日独を比較する意味は大きい。

ドイツでは2020年までの調査によると、若年層のうち62%が「米軍基地は自国の安全保障に重要でない」と回答したという。だがロシアによるウクライナ侵攻が現実のものとなった今、「重要である」とする回答が一気に増えるのかもしれない。

関連する投稿


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】トランプとバイデンの意外な共通点  園田耕司『覇権国家アメリカ「対中強硬」の深淵』(朝日新聞出版)

【読書亡羊】トランプとバイデンの意外な共通点 園田耕司『覇権国家アメリカ「対中強硬」の深淵』(朝日新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】原爆スパイの評伝を今読むべき3つの理由  アン・ハーゲドン『スリーパー・エージェント――潜伏工作員』(作品社)

【読書亡羊】原爆スパイの評伝を今読むべき3つの理由  アン・ハーゲドン『スリーパー・エージェント――潜伏工作員』(作品社)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】「条文削除」を訴えるなら、海保法25条より憲法9条第2項 奥島高弘『知られざる海上保安庁』

【読書亡羊】「条文削除」を訴えるなら、海保法25条より憲法9条第2項 奥島高弘『知られざる海上保安庁』

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】「K兵器」こと韓国製武器はなぜ売れるのか 伊藤弘太郎『韓国の国防政策』(勁草書房)

【読書亡羊】「K兵器」こと韓国製武器はなぜ売れるのか 伊藤弘太郎『韓国の国防政策』(勁草書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

チマチマした少子化対策では、我が国の人口は将来半減する。1子あたり1000万円給付といった思い切った多子化政策を実現し、最低でも8000万人台の人口規模を維持せよ!(サムネイルは首相官邸HPより)


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


わが日本保守党|広沢一郎(日本保守党事務局次長)

わが日本保守党|広沢一郎(日本保守党事務局次長)

昨今の政治状況が多くの日本人の心に危機感を抱かせ、「保守」の気持ちが高まっている。いま行動しなければ日本は失われた50年になってしまう。日本を豊かに、強くするため――縁の下の力持ち、日本保守党事務局次長、広沢一郎氏がはじめて綴った秘話。