「ディープステートが悪い」と責任転嫁
確かに、次々と列挙される強権的指導者たちの振る舞いや思想、そのスタンスの「伝染」の様子を読んでいくと、まるでドミノ倒しかオセロのように民主主義国家が非民主的手法に転じていくさまがうかがえる。
ここが本書の面白いところで、単に独裁者の振る舞いを列挙するのではなく、そこに横串を刺し、通底する手法や価値観をあぶり出しているのだ。そのままプーチン的手法を取り入れる者がいれば、そうした強権的手法に立ち向かうために自らも強権的になるリーダーもいる。
驚いたのは、陰謀論者をざわつかせる「ディープステート」の存在を、トランプ、ジョンソン、ブラジルのボルソナロ大統領などが自らほのめかし、「自分の政治がうまくいかないのはディープステートの影響だ」と責任転嫁を図っているという点だ。彼らは嘘をつくこと、都合の悪い報道をフェイクニュースと認定し、無視することをいとわない。
強権的指導者は主として反リベラル的であり、反グローバルを掲げる。これについては、「反リベラル、反グローバルが国民の多くに受け入れられる下地があるのだろう」と理解はできる。グローバル化の恩恵を受けられない、あるいは負の遺産だけを背負わされている層の人たちがいて、彼らが強権的指導者を支持するのだ。
リベラル化に関しては、左派の人たちからすれば足りないだろうが、100年単位で見れば急速に前進しているのは確かだ(例えばギロチンなどの公開処刑がなくなったのはリベラル化の成果だ)。それでも、急進的でついていけないという人、宗教規範との衝突で反発する人がいるのも理解はできる。
だが、嘘はいけない。自らを支持し、「我らのリーダー」と仰ぐ国民を嘘で操作するというのは、どんな政治体制であれ間違っているという点で、政治スタンスを超えて一致できるはずである。グローバル化やリベラリズムを受け入れるか否か以前に、「国民に嘘をついているかどうか」を判断基準にすべきではないだろうか。
光強ければ影もまた濃い
さて、本書には本稿冒頭に登場したソロス氏も「強権的指導者に対抗する存在」として登場する。
反ユダヤ主義と相まって「世界を陰で牛耳っている」との陰謀論の中心的存在に仕立て上げられ、西側全体とロシア、中東に敵を作り、自宅に爆発物を仕掛けられたり、殺害予告を受けたりしながらも、今度は中国にターゲットを定め、「中国は『開かれた社会』という概念を信じる人にとって最も危険な対抗者となる」と懸念を示している。
しかし彼が活動すればするほど、その国でリベラリズムへの反発が起きるのも確かで、本書ではソロスと対照的な、裏表の関係に位置する人物として、トランプ大統領の選挙顧問を務めていたスティーブ・バノンをソロスと同じ章で取り上げている。
光強ければ影もまた濃い。
著者のラックマンは「個人に頼る強権的指導者の時代はそう長くは続かない」としながらも、こう続ける。
〈「強権的指導者の時代」が最終的に歴史になるまでには、多くの混乱と苦しみが待ち受けていることだろう〉
2022年2月末に始まり、半年を超える戦闘を続けているロシアは、まさにこの一文を予言しているかのようだ。