ウクライナ危機が台湾有事に与える影響とは
読者にとって最も気になる中国の動向は、増田雅之氏担当の第三章で論じられている。中国はこれまでロシアのウクライナ侵攻を表立って支持してはいないものの、米欧批判を繰り返している。
やはりロシア非難は難しいのだという。
なぜなら中ロは首脳会談を繰り返してきており、ロシア非難はこれまで積み上げてきた中ロ関係の否定、つまり習近平の正統性への否定にも及びかねないためだ。
だが、同時に〈中国にとってロシアを抱え込む戦略的リスクは大きいと言わざるを得ない〉ともいう。確かに、「抱え込む」ことで中ロが同一視され、「台湾はウクライナのようにはさせない」と各国が対中姿勢や結束を強めることは、中国にとっては何としても避けたい事態であろう。
一方で「アメリカはウクライナ支援に積極的だが、米軍派兵まではしていない」現状が、中国に与える影響も座談会で指摘されている。
台湾有事にも米軍は出てこないのではないか、という中国側の希望的観測を誘発すれば、事態は望まぬ方向へ進みかねない。だが、「必ず出る」と言えばそれはそれでよからぬ影響があり、だからこそアメリカは「曖昧戦略」を続けてきた。
事程左様に、国際社会の秩序は危ういバランスの上にあり、各国の思惑は複雑にまじりあっている。「このウクライナ侵攻で得したのは中国だけ、だから黒幕は中国だ」などと断言できる陰謀論のように単純な世界ではない。
正しい情報こそが国家戦略の下地になる
本書は、200ページ未満とコンパクトでありながら、註も充実。研究者の論文だから当たり前と言えば当たり前なのだが、「情報源を明らかにしながら、読者でもアクセスできる情報をもとにここまで分析できる」専門家の凄みを、より感じられる。
「誰も指摘していない情報」「メディアが報じない真実」といった「信憑性の低い本や動画」ではお決まりの文言を制することの、今日的な意味はすこぶる大きい。
ウクライナ侵攻に関して、防衛研究所の研究員はテレビや新聞などにも多く登場し、「オールドメディア」の情報精度を高めるにも一役買っている。
一方、これを面白く思わず、「政府とメディアの一体化を危惧」と評した新聞社OBが話題になった。
防衛職員が連日のコメンテーターの異様ロシアのウクライナ侵略の報道で、連日連夜、防衛研究所のスタッフがテレビ番組に登場するのを見て、「ジャーナリズムの一環に食い込んでしまったようで、やりすぎではないか」と、思ってきました。国家・国家機関とメデ