米政府は6月29日から8月4日まで行われる環太平洋合同演習(リムパック)の参加国をこのほど公表したが、この中に台湾は含まれていなかった。リムパックは米海軍主催で2年に一度実施されるもので、2022会計年度の米国防権限法は今年のリムパックに台湾を参加させるようバイデン政権に促していた。また、2020年に台湾の当時の厳徳発国防部長(国防相)も参加に意欲を示していた。それだけに、台湾が今回招かれなかったのは残念である。日本の立場からしても、軍事的に極めて遺憾な措置であった。
多国間の枠組みでのみ可能な日台海軍交流
日本の海上自衛隊と台湾海軍が二者間で合同演習を行うことは、今の政治環境下では不可能である。しかし、リムパックのような多国間演習に台湾海軍が参加することは、主催者の米国が招待すれば可能であり、それによってデータ・リンクによる台湾海軍と海上自衛隊のリアルタイム・コミュニケーションが確立できる絶好のチャンスであった。
台湾海軍の主力艦は、米海軍から取得したキッド級駆逐艦4隻とライセンス生産によるオリバー・ハザード・ペリー級フリゲート艦8隻で、リアルタイムに戦術図が共有できるデータ・リンク11を保有している。海上自衛隊の護衛艦もほとんどがリンク11を装備している。従って、米海軍が共通の暗号を供与しさえすれば、台湾海軍と海上自衛隊は、例えば中国人民解放軍海軍の強襲揚陸艦の位置情報などを共有できる。これは軍事的に見れば大きなステップである。
思えば、海上自衛隊が1980年に初めてリムパックへの参加が許された時、それまで自衛隊にはタブーであった多国間演習が可能となり、これによって憲法解釈上禁じられていた集団的自衛権の行使に風穴を開けることができた。
米国が共和党政権であったなら
仮に米国が民主党でなく共和党の政権であったら、台湾のリムパック参加問題にどのような判断をしただろうか。
2014年に人民解放軍海軍を初めてリムパックに招待したのは民主党のオバマ政権であった。共和党のトランプ政権になって、2018年5月、米政府は同海軍のリムパック招待を取りやめた。当時、米国防総省で対中政策の実務の中心を担うインド太平洋安全保障問題担当次官補は、中国に厳しい認識を持つランディ・シュライバー氏(シンクタンク「プロジェクト2049」の現会長)であった。
同じ2018年にトランプ政権は、米国の陸・空軍士官学校と海軍兵学校に留学している台湾軍人に軍服着用を許可している。こうしたことから見て、今の政権が共和党なら、民主党のバイデン政権と異なる判断をしていたのではなかろうか。
3月末にバイデン政権が公表した「国家防衛戦略」のファクトシート(概要説明文)は「中国に対する抑止強化」をうたっている。リムパックへ台湾を招かなかったことは、これに沿った措置とは到底思えない。(2022.06.13国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)