日本の核不安の一因はバイデン政権にある|太田文雄

日本の核不安の一因はバイデン政権にある|太田文雄

ウクライナ侵略後、ロシアが核兵器使用をほのめかして威嚇する中で、我が国においても核攻撃に対する不安から、米国との核共有や日本独自の核保有を検討すべきだとの議論が高まっている。そうした不安の一因はバイデン政権の政策にある。


ウクライナ侵略後、ロシアが核兵器使用をほのめかして威嚇する中で、我が国においても核攻撃に対する不安から、米国との核共有や日本独自の核保有を検討すべきだとの議論が高まっている。そうした不安の一因はバイデン政権の政策にある。

まずウクライナがロシアに侵略された際の対応について、本来なら曖昧にしてロシアに侵略を躊躇させるべきところ、バイデン政権は早々と米国の軍事力行使を否定してしまった。これによりロシアは米国の武力介入を恐れずにウクライナを侵略することができた。また、バイデン政権は度重なるロシアの核恫喝にひるみ、ロシアに戦争エスカレーションの主導権を握られている。その非力さを同盟国に見られている。

潜水艦発射の核トマホークを放棄

さらに、3月末にバイデン政権が公表した「核態勢報告」(NPR)のファクトシート(概要説明書)には「強力で信頼性のある拡大抑止のコミットメントを維持することが最優先事項」と書かれている。しかし、同時期に公表された予算教書には、トランプ政権で開始された潜水艦発射型の核弾頭搭載巡航ミサイル・トマホークの開発経費が盛り込まれていない。潜水艦発射型の核トマホークは、隠密性と柔軟性に富み、同盟国に核による拡大抑止を提供する上で最も有効なツールである。にもかかわらずそれを放棄するのは、本気で同盟国に対して拡大抑止を効かそうとしていないと見られても仕方がない。

つまりバイデン政権は、言っていることと、やっていることが違うのである。潜水艦発射型の核トマホークを放棄する決定は、国際的な戦略環境に基づく判断というより、トランプ前政権が決定したことだからという党派的な思考に根差すと思われるだけに、残念である。

ICBMの定期実験も延期

一方、歴代の米政権は大陸間弾道ミサイル(ICBM)ミニットマン3の定期的な発射実験を行ってきた。ところがバイデン政権は、ロシアのウクライナ侵略開始後の3月に予定していた実験を「ロシアに誤解を与えないため」という理由で延期してしまった。

バイデン政権と同じ民主党のオバマ元政権も、北朝鮮の核実験により朝鮮半島で危機が生じた2013年に、ミニットマン3の発射実験を延期したことがある。2017年に北朝鮮が連続して弾道ミサイルを試射した際、共和党のトランプ前政権が米国の発射実験を増やしたのと好対照である。

ロシアも北朝鮮も、そして中国も、以上述べたような米国の態度を「弱み」と受け止めて、更なる攻勢に出てくる。核抑止に関しては、エスカレーション・ラダー(はしご)を恐れずに上ることにより、結果的に相手側の核使用の可能性を最小限に抑えられることを忘れてはなるまい。(2022.05.16国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

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