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編集部・梶原の「リベラル本 ずぼら書評」

あの菅野完氏も登場――朝日新聞取材班『権力の「背信」』

旬の「リベラル本」、どんなことが書いてあるのか確認したいけれど……。そんな本をご紹介するこのシリーズ。5冊目は朝日新聞取材班『権力の「背信」 「森友・加計学園問題」スクープの現場』(朝日新聞出版)。

■主役は「頑張る僕たち」

この本、400ページ超で「モリ」と「カケ」両方を扱っているのですが、今回は、『月刊Hanada2018年9月号』の小川榮太郎さん×籠池佳茂さんのスクープと連動して、主に「森友問題」に関する記述に絞ってご紹介したいと思います。

帯の文字が輝かしいですね。〈ゆがめられた〝この国の形〟〉〈独自取材で次々と明るみに出た〝疑惑〟に迫る〉。いよいよ朝日新聞が「モリカケ」を総括するのか、と楽しみに読み始めたのですが、どうも様子がおかしい。

森友学園問題は大阪で始まり、永田町中枢へと飛び火していくため、本書には豊中支局の社会部記者から東京の政治部記者まで、多くの朝日新聞記者が実名で登場します。

それはいいのですが、記者の紹介文がいちいち鼻につくんですね。

たとえば大阪社会部、豊中支局の吉村治彦支局長。

〈吉村は2000年に朝日新聞社に入社した。中国地方や九州地方の総局を経て14年に大阪社会部員となり、豊中支局をまかせられた……(各地域での活躍と功績が続くが、長いので割愛)……久しぶりの故郷に、張り切る気持ちがみなぎっていた〉

……必要ですか? この記述。

本書で詳細な報道と取材の経過が分かるのはありがたいものの、合間合間に「誰それは天井を仰いだ」だの「慌ててリュックに取材道具を詰め込み、タクシーに飛び乗った」だの「帰宅後もなかなか寝付けなかった」だのという「僕たち頑張って取材してますッ!」系の描写が差し挟まれます。

要するにこの本、むしろ本題は副題の方でして、「スクープの現場」、そのなかでも「現場で頑張る僕たち」が主役。読み切るにはそれなりの精神力、忍耐力が必要です。

■話題の菅野完氏も登場

今回、『月刊Hanada2018年9月号』で明らかになった通り、籠池夫妻は著述家の菅野完氏と会ってから、菅野氏だけをメディア対応の窓口とし、資料などもじゃんじゃん提供してしまいました。そのため、各メディア関係者も、籠池氏側の取材をするためには菅野氏とコンタクトを取らざるを得なくなったようです。

朝日新聞政治部の南記者は、ある仲介者を経て菅野氏と面会。仲介者が「この記者は断酒までして本気でやっているから、何とかインタビューさせてもらえないか」と頼み込み、資料提供のクレジットを入れることを条件に籠池夫妻の取材を許されます。

〈クレジットを記事に明示することを条件に、証言の裏付けとなる資料も見せてくれるという〉という一文も。この「見せてくれる」なる言い回し、引っ掛かりませんか。

そして2017年5月18日には、帝国ホテル大阪で菅野氏主催の「森友勉強会」が開かれ、朝日新聞からは記者2名が出席。夕方から未明まで7時間以上にわたったそうですが、帝国ホテル大阪の室料は誰が払ったのでしょうか(割り勘?)。

■朝日が本に書かなかった「森友からの抗議」

本書が発売されたのは6月12日(amazonより)。そのため、5月23日に財務省が公開した950ページの「森友学園と近畿財務局の交渉記録」については分析が間に合いませんでした。

しかし交渉記録を読んだうえで、本書の内容と照らし合わせてみると、気になる点が。

朝日新聞の森友報道は2月9日の記事から始まりますが、交渉記録によると14日付の記事が森友側、近畿財務局側にとって、かなり痛手だったようです。

2017年2月13日、朝日新聞は朝8:30にこの日のトップバッターで森友側に取材を敢行。

翌2月14日の朝日記事は、ドンと〈学園「ごみ撤去1億円」 国見積もりは8億円 国有地購入〉と見出しを打ちます。

 

しかし本文を見てみると、籠池理事長は「1億円くらいかな」と述べています。

 

交渉記録によれば、近畿財務局は慌てて森友学園側に確認を取っています。これでは「ゴミの撤去費は1億しかかかっていないのに、8億も土地の値段を下げた」かにとられかねないからです。

籠池理事長が朝日には「1億かな~、まあいろんな費用が混ざってるから、詳しくは知らんけども……」というような感じで答えた(と近財には話している)ものを、朝日新聞は本文こそ「1億円くらいかな」とボカしながらも、見出しでは「ごみ撤去1億円」としてしまったのです。

そこで近畿財務局は森友学園の代理人弁護士に「朝日にきちんと訂正を申し入れたほうがいい」と助言し、代理人も朝日側に「事実と異なる」と申し伝えるのですが、朝日の記者側は「いや、あなたは確実に1億円と言った」と押し切った様子で、このことが交渉記録にバッチリ残っているのです。

本書にはもちろん、この件に関するやり取りは書かれていません。抗議を受けたことはスルー。交渉記録は近畿財務局側の記録ではあるわけですが、「事実誤認である」と申入れがなされている。朝日新聞はこれをどう考えるのか。「スクープの現場」で起きるこのようなケースにどう対応するのかは、書き残しておくべきことのように思います。

2017年2月9日の第一報を打つ際には〈(記事の)表現が正しいかどうか。取材先から誤解され、思わぬクレームが来ないよう、一字一句に気を配る。緊張からか、体から汗が噴き出す〉というほど慎重だったようなのですが、この件についてはストレートにクレーム(記事と認識の修正要請)が来ていますよ! にもかかわらず、本で触れもしないというのは、いかがなものでしょうか。

「森友編」の最後には〈核心にたどり着こうとする朝日新聞の取材もまた、変わらずに続く〉とあります。そしてこの本は中間報告である、とも。「総括」が待たれます。

 

【本書の「気になるポイント」】
例の、「安倍晋三記念小学校」名に関する報道。確かに当初、森友学園側は近畿財務局や大阪府に「この名称で行きたい」と言っていたらしき形跡が交渉記録に残っています。が、申請時には別名にしていました。

朝日は小学校の設立趣意書に「安倍晋三小学校」とあった、と書き、誤報を出していますが、これについての本書の記述はあれこれと経緯を説明したうえで、〈訂正を出した〉の一言で終了でした。

 

読み比べてみよう。

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