“弱毒”のオミクロン株に翻弄!岸田内閣は“ワイドショー内閣”だ|坂井広志

“弱毒”のオミクロン株に翻弄!岸田内閣は“ワイドショー内閣”だ|坂井広志

「聞く力」がトレードマークの岸田首相だが、いったい誰の声を聞いているのか。「まん延防止等重点措置」の適用について、ある政府関係者は「先手の対応だ」とご満悦だったが、浮かれている場合ではない。そもそも本当に「先手」なのだろうか。「聞かなきゃわからない岸田首相」のコロナ対策を、産経新聞編集委員の坂井広志氏が斬る!


菅前首相を反面教師に「やってる感」を演出

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新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の対策をめぐり、首相官邸の住人たちから「先手、先手だ」と称賛を浴び、まさか悦に入っているわけではあるまい。岸田文雄首相のことである。

筆者から見れば、先手というより、オミクロン株に翻弄されているようにしか見えない。とにかく世間の批判を浴びないように、後手批判にさらされた菅義偉前首相を反面教師にして、対策を打ち出し、今流の言い方をすれば「やってる感」を演出する。これが岸田首相の姿にほかならない。

政府は1月7日にコロナ対策本部を開き、沖縄、広島、山口の3県に緊急事態宣言に準じた措置が可能となる「まん延防止等重点措置」の適用を決めた。ある政府関係者は「先手の対応だ」とご満悦だったが、浮かれている場合ではない。そもそも本当に先手なのだろうか。

内閣官房の資料によると、適用する方針を固めた前日6日の沖縄の病床使用率は約25%にすぎなかった。そういう意味では、早い段階で重点措置を適用する判断を下したと言えなくもない。

しかし、である。
昨今よく報道されるように、沖縄では医師や看護師ら医療従事者が相次いで感染し、濃厚接触者を含め欠勤が相次いでいる。7日には過去最多の313人の医療従事者が欠勤。8日には437人に上った。現地の医師からは、「医療崩壊だ」との悲鳴がこのときすでに上がっていた。

病床使用率が低くても、医療従事者が欠勤してしまえば病床の逼迫に直結するわけで、もし今回の対応を「先手を打った」と首相がお考えなら、このあたりの認識は甘いと言わざるを得ない。

さらに言えば、「感染力は強いが、重症化率は低い」といわれるオミクロン株の特徴をどうとらえ、政策に落とし込むべきと考えているのか、首相の口から聞かれないのは残念だ。

沖縄の重症者は、重点措置の適用を決めた時点で0人だ。多くが軽症者なわけだが、軽症であっても感染者が多発すれば、濃厚接触者を含めて医療機関、介護施設、保育施設、交通機関、警察、消防などで欠勤者が続出し、社会機能は麻痺しかねないという問題はある。

しかしそれなら、濃厚接触者の自宅などでの待機期間を見直すなど、やりようはある。結局、見直しはしたが、その時期、1月14日。はっきり言って、遅い。

口を開けば「最悪の事態を想定する」と言ってはばからず、「これが危機管理の要諦だ」とも語る岸田首相。聞こえは良いが、コロナ対策はそう単純なものではない。医療資源には限りがある。最悪の事態を想定することと、医療資源の効率的な利用が相反するケースは少なくなかろう。

最悪の事態を想定した結果、医療従事者は極度に疲弊し、経済が大打撃を受ければ、元も子もない。

もうひとつの「先手」疑惑

もうひとつ、首相周辺から「先手の対応だった」と称賛する声が上がっている一件がある。全世界からの外国人の新規入国停止だ。

称賛された理由は、外国人の新規入国停止を表明した翌日である11月30日に、オミクロン株の感染者が日本で初めて確認されたという時系列にある。官邸関係者からは、「外国人の新規入国停止の発表が1日遅れていたら、世間から何を言われたか分からなかった」と安堵の声が漏れた。

つまり、国内でのオミクロン感染第1号が確認されたあとに水際対策の強化を発表すれば、後手批判は避けられなかったというわけだ。そんな世間の目ばかりを気にしているあたりが、岸田政権の器の小ささを感じさせるわけだが、それはさておき、時系列をつぶさに見ると、必ずしも「先手」とは言えないことが分かる。

南アフリカが世界保健機関(WHO)に新たな変異株を報告したのは、日本時間の昨年11月25日。政府は翌26日に、南アや周辺国の計6か国に対し水際対策を強化することを発表し、入国者は国指定の宿泊施設で10日間の待機とした。

このときも、ある政府関係者は「早い対応をした」と胸を張ったが、ネット上では「10日間の待機では生ぬるい」などの批判が続出した。

さらなる対応を迫られた政府は27日、水際対策強化の対象にモザンビークなど3か国を追加することを決めたが、批判が収まることはなかった。そしてさらに翌日の28日、のちにオミクロン株感染第1号と判明する人物が成田空港に到着。ちなみに、この人物がナミビアの外交官である。

後藤茂之厚生労働相は29日にぶら下がりで、この入国者は陽性であり、ゲノム解析中であることを明らかにした。外国人の陽性者を厚労相がいちいち発表することはない。つまり、オミクロン株第1号の疑いがあるからこそ、大臣自らが発表したとみるのが自然だ。ゲノム解析は、オミクロン株かどうかを調べるためだったのだろう。

ナミビアの外交官がオミクロン株感染第1号になる可能性があるという重要な情報は、首相のもとに、同外交官が入国した28日の時点で届いていたことが十分考えられる。

首相は翌29日にぶら下がりで、
「緊急避難的な予防措置として、外国人の入国について、11月30日午前0時より全世界を対象に禁止をいたします」と表明するに至った。

時系列から読み取れるのは、決して「先手」ではない。そこにあるのはオミクロン株に翻弄される姿だ。

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