私は需要よりも、まず「供給側」の生産性向上が不可欠だと考えています。これまでの日本が成長してきた要因は2つありました。生産性向上と人口の激増です。
しかし、人口の自然増が望めないいま、経済成長するには生産性向上をさせるしかない。
これは断言しますが、大企業の努力やスタートアップだけで、日本経済は絶対に大きく成長しません。大企業は労働者の3割しか雇っていませんし、生産性はすでに中小企業の倍くらいある。岸田総理の言う株主資本主義を変えていっても、日本の生産性はそこまで上がらないのです。
スタートアップはもちろん大事ですが、人口が大きく増加しているならまだしも、人口が減っているなかで、新しい企業ができ、生産性が高くて成長率が高くても、低生産性の既存企業の影響を和らげることはできません。日本の生産性向上は、中小企業の生産性向上策しかないのです。
商工会議所は、中小企業の生産性向上には下請けいじめをなくすことが不可欠と主張していますが、まやかしです。もちろん、その政策は大事ですが、下請け企業は中小企業の一割弱しかなく、中小企業の生産性向上とほとんど関係ないからです。
鐘の会社はもとより、飲食店のような供給過剰の業界は生産性も低い。岸田政権は、そういった供給過剰な業種の生産性を向上させるような政策を打ち出す必要がある。中小企業は360万社もありますから、さまざまな生産性向上の仕方があります。事業再構築もあれば、若い経営者にバトンタッチをするということもあるでしょう。
人口が増えず、新しい成長はなかなか難しいので、既存資源の再構築が必要です。しかし、中小企業の問題もそうですが、生産性の低い業界を再編しようと思えば、既得権益者たちから必ず反発があります。そのとき、岸田総理は毅然と対峙できるのか。
どんな政策にもプラス面とマイナス面があります。これまでの政策では、99のプラスがある政策でも、1のマイナス(一部からの反発)を嫌って、抜本的な改革をしてこなかった。私が注目しているのは、来年八月の最低賃金改定です。そのとき、岸田総理がどう立ち振る舞うか。
もし、岸田総理が悪い意味で「聞く力」を発揮し、既得権益側の反発に折れるようなことがあれば、「所得倍増」「成長と分配の好循環」など夢のまた夢に終わるでしょう。
小西美術工藝社社長。1965年イギリス生まれ。日本在住31年。オックスフォード大学「日本学」専攻。裏千家茶名「宗真」拝受。1992年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年同社会長兼社長に就任。2017年から日本政府観光局特別顧問を務める。『デービッド・アトキンソン新・観光立国論』(東洋経済新報社、山本七平賞、不動産協会賞受賞)『日本再生は、生産性向上しかない!』(飛鳥新社)など著書多数。