“バラマキ”で日本経済を救えない理由|デービッド・アトキンソン

“バラマキ”で日本経済を救えない理由|デービッド・アトキンソン

先の衆院選で、自民党は大勝、岸田新内閣が発足した。岸田総理は「所得倍増」「成長と分配の好循環」といった目標を掲げているが、本当に実現できるのか。 伝説のアナリストが、いまの日本に本当に必要な経済政策とはなにかを説く!


私は需要よりも、まず「供給側」の生産性向上が不可欠だと考えています。これまでの日本が成長してきた要因は2つありました。生産性向上と人口の激増です。

しかし、人口の自然増が望めないいま、経済成長するには生産性向上をさせるしかない。
 
これは断言しますが、大企業の努力やスタートアップだけで、日本経済は絶対に大きく成長しません。大企業は労働者の3割しか雇っていませんし、生産性はすでに中小企業の倍くらいある。岸田総理の言う株主資本主義を変えていっても、日本の生産性はそこまで上がらないのです。
 
スタートアップはもちろん大事ですが、人口が大きく増加しているならまだしも、人口が減っているなかで、新しい企業ができ、生産性が高くて成長率が高くても、低生産性の既存企業の影響を和らげることはできません。日本の生産性向上は、中小企業の生産性向上策しかないのです。
 
商工会議所は、中小企業の生産性向上には下請けいじめをなくすことが不可欠と主張していますが、まやかしです。もちろん、その政策は大事ですが、下請け企業は中小企業の一割弱しかなく、中小企業の生産性向上とほとんど関係ないからです。
 
鐘の会社はもとより、飲食店のような供給過剰の業界は生産性も低い。岸田政権は、そういった供給過剰な業種の生産性を向上させるような政策を打ち出す必要がある。中小企業は360万社もありますから、さまざまな生産性向上の仕方があります。事業再構築もあれば、若い経営者にバトンタッチをするということもあるでしょう。
 
人口が増えず、新しい成長はなかなか難しいので、既存資源の再構築が必要です。しかし、中小企業の問題もそうですが、生産性の低い業界を再編しようと思えば、既得権益者たちから必ず反発があります。そのとき、岸田総理は毅然と対峙できるのか。
 
どんな政策にもプラス面とマイナス面があります。これまでの政策では、99のプラスがある政策でも、1のマイナス(一部からの反発)を嫌って、抜本的な改革をしてこなかった。私が注目しているのは、来年八月の最低賃金改定です。そのとき、岸田総理がどう立ち振る舞うか。
 
もし、岸田総理が悪い意味で「聞く力」を発揮し、既得権益側の反発に折れるようなことがあれば、「所得倍増」「成長と分配の好循環」など夢のまた夢に終わるでしょう。

デービッド・アトキンソン

https://hanada-plus.jp/articles/347

小西美術工藝社社長。1965年イギリス生まれ。日本在住31年。オックスフォード大学「日本学」専攻。裏千家茶名「宗真」拝受。1992年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年同社会長兼社長に就任。2017年から日本政府観光局特別顧問を務める。『デービッド・アトキンソン新・観光立国論』(東洋経済新報社、山本七平賞、不動産協会賞受賞)『日本再生は、生産性向上しかない!』(飛鳥新社)など著書多数。

関連する投稿


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

衆院選が終わった。自民党は過半数を割る大敗で191議席となった。公明党も24議席となり連立与党でも215議席、与党系無所属議員を加えても221議席で、過半数の233議席に12議席も及ばなかった――。


石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

9月27日、自民党新総裁に石破茂元幹事長が選出された。決選投票で高市早苗氏はなぜ逆転されたのか。小泉進次郎氏はなぜ党員票で「惨敗」したのか。石破新総裁〝誕生〟の舞台裏から、今後の展望までを記す。


慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃(東京開催)|松木國俊

慰安婦問題を糾弾する「日韓共同シンポジウム」の衝撃(東京開催)|松木國俊

日米韓の慰安婦問題研究者が東京に大集合。日本国の名誉と共に東アジアの安全保障にかかわる極めて重大なテーマ、慰安婦問題の完全解決に至る道筋を多角的に明らかにする!シンポジウムの模様を登壇者の一人である松木國俊氏が完全レポート、一挙大公開。これを読めば慰安婦の真実が全て分かる!


憲法改正の国会発議はいつでもできる、岸田総理ご決断を!|和田政宗

憲法改正の国会発議はいつでもできる、岸田総理ご決断を!|和田政宗

すでに衆院の憲法審査会では4党1会派の計5会派が、いま行うべき憲法改正の内容について一致している。現在いつでも具体的な条文作業に入れる状況であり、岸田総理が決断すれば一気に進む。


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。