【読書亡羊】米中戦争は「必然」なのか? エリオット・アッカーマン、ジェイムズ・スタヴリディス『2034 米中戦争』(二見文庫)

【読書亡羊】米中戦争は「必然」なのか? エリオット・アッカーマン、ジェイムズ・スタヴリディス『2034 米中戦争』(二見文庫)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


原題は「次の世界大戦の小説」

本書は米中に加え、インド、イランのそれぞれの登場人物の立場で見たミクロな視点での、戦争勃発から終結までを、視点を切り替えながら描く。

事は米中の衝突から始まったことではあるが、国際社会全体へ波及していく。イランは中国と連携してアメリカを牽制する役割、インドは米中の仲裁役――ただし日本人が思うような意味ではない――として位置づけられている。そして世界の破滅を望むがごとく立ち回るロシアの影もちらつく。原題が「A Novel of the Next World War」、つまり「次の世界大戦の小説」なのはそれゆえだ。

視点を与えられた彼らの多くは自分のやるべきことを理解し、そのために動こうとしている。事態のエスカレートを防ごうとする人物もいるが、政策決定者たちは物語中の現状を正しく認識できていない。

例えば、米国家安全保障担当大統領補佐官の一人で、インドとアメリカにルーツを持つサンディープ・チョードリという人物。彼のルーツや提言は事態の抑制に役に立つはずだったが、中国との対決を望む同僚に阻まれ、退けられ、彼の提言が採用されることはない。

それぞれの人物による細部のリアリティの積み上げによって、決定的な認識のずれ、判断のミスが積み重なり、誰も望まない事態へと追い込まれていく事態に臨場感を持たせている。物語のお約束的な意味での英雄も登場しないし、「最終的にアメリカ万歳」的なオチも全くない。

――一つでも選択が違っていれば、少なくとも3000万人もの人々が核の熱線で命を落とすことはなかったのに――

読んだ後多くの人はそう思うだろう。

ちなみに、日本人であれば誰もが多少なりと「原爆教育」を受けている。その上では、本書の「核」と「その被害」の描写には疑問を抱かざるを得ない面もあったことを指摘しておきたい。

「同じ未来をたどらないでくれ」

こうした最悪のシナリオは実際に起こりうるのだろうか。もちろん可能性は常に存在している。米中対立は歴史の必然であり、台湾と南シナ海の制圧を狙う中国と、それを阻止したいアメリカの間で軍事的衝突が勃発しかねないほど、圧力が高まっているのは確かだ。

それゆえにこうした小説が「警告」として世に発せられ、安全保障関係者から評価を得る他、あらゆる媒体で「台湾有事発生シミュレーション」なども多く公表されているのであり、それ自体は必要だ。

しかし忘れてはならないのは、米中の対立は必然でも、米中戦争、さらにはその先の核戦争や「第三次世界大戦」は「必然ではない」ことだ。

本書にもこんなやり取りがある。アメリカの二都市が核で壊滅したとの一報が入った、インド人のパテルとイラン人のファルシャッドが居合わせる場でのやり取りだ。

 パテルが大きく息を吐いた。「悲劇だな、これは」
 
 ファルシャッドは眉をひそめた。「必然だ」彼は答え、カップに注がれた紅茶から立ち上るきれいに渦を巻いた湯気を吹いた。

 「必然か?」パテルは聞いた。「ほんとうか? 避けられなかったと思っているのか?」

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