「悲しみに満ちた婚活体験記」にとどまらない理由
以前から思っていたことだが、ある意味で「無限に相手が供給されてくる市場」で「たった一人の相手」を探し出し、さらに結婚にまで持ち込むというのはそもそも相当、難しい作業である。
出会いのきっかけに過ぎないととらえるのであれば別だが、「よりいい相手を」という競争原理が、そもそも働く土壌である。よほどの条件がそろわない限り「今の相手が私にとって条件の上限である」という確信など持てるはずがないのだ。
さらにつらいのは、マッチングする相手とはつまり「自分の写し鏡」であって、自分の市場価値の具現化が、目の前にいる相手の姿だということだ。
原理的に言えば恋愛結婚だって「生活の中で出会えるという限られた条件下での市場原理の結果」と言えないことはない。しかしそれがシステマチックに「市場」において展開され、現実を突きつけられることの厳しさは存在しているだろう――という想像はしていた。
だが現実はいつだって想像を上回る。
高橋氏も書いているように、本書は自らの「悲しみに満ちた婚活体験記」なのだが、同時に経営学者としての手腕や研究手法を動員してまとめ上げられた「研究書」でもある。
それだけでもなかなか類を見ないのではないかと思うが、本書は何より、読んで(つらいけれど)面白いのだ。
婚活市場という戦場に飛び込み、負った傷と経験をこうした形で「昇華」させた高橋氏に心からの拍手を送りたい。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。