「内部留保課税」よりも、「現預金課税」で
次に、嫌われる増税の話です。
昨今、「厳しい景況下でも企業の内部留保は増えている。従業員の賃金増や設備投資を行わず企業が貯めこんでいる。内部留保課税をするべきだ」という声をよく伺います。「内部留保」とは、企業が得た利益から株主への配当金、税金や役員賞与金など社外流出分を引いた利益留保額で、「利益剰余金」と呼ばれます。
企業の危機対応や成長投資などに使われるが、リーマンショック以降、海外子会社への投資や海外企業に対するM&Aに活用され、固定資産を取得している場合もあり、必ずしも企業内貯蓄として現金が余っていることにはならない。
東京財団政策研究所研究主幹の森信茂樹氏によると、2015年に韓国で、設備投資や賃上げを行わずに内部留保を積み上げる企業への懲罰的な課税として「企業所得還流税制」と呼ばれる内部留保課税が3年間の時限措置として行われたものの、結局、設備投資も賃上げも実施されず、留保金課税を避けるために配当の増加で利益処分を増やしたということでした。
「内部留保」は貸借対照表では「貸方」ですが、私は、むしろ貸借対照表では「借方」の「現金・預金」に着目している。
『法人企業統計調査』の2021年1~3月期を見ると、前年同期に比べて「現金・預金」が約34兆円増え、総額235兆円を超えている。仮にこの「現金・預金」だけに1%課税しても、2兆円を超える税収になる。ただし、資本金1億円未満の企業は課税対象外にするという方法も考えらます。
企業規模別の統計は、2019年度分が最新データ。同年度の法人企業の「現金・預金」の総額は、221兆2,943億9,100万円。資本金1億円未満の企業の「現金・預金」総額122兆7,305億400万円を除くと、98兆5,638億8,700万円。ここ数年間の増額傾向を考えると、現状、概ね100兆円と推測できます。仮に1%の課税で1兆円、2%の課税で2兆円ということになる。
ただし、「現金・預金」への課税であれ、「内部留保」への課税であれ、法人課税された後のものなので、「二重課税だ」という不満は出ると思います。
仮に「従業員への分配」を進めることだけを目的にするのならば、各種特別措置を廃止して法人税率を一律25%にして、5%以上の昇給を実施した企業については5%の減税措置を講じる方法もある。
「炭素税」の在り方
これも、増税の話になります。
菅内閣が「2050年カーボンニュートラル」という大きな目標を表明したことから、「炭素税」の議論が活発になってきている。
現在の日本で「炭素税」と呼べるものは、CO2排出量に比例して課税されている「地球温暖化対策税」です。石油石炭税の上乗せ税率として、2012年に導入されました。
「地球温暖化対策税」では、全ての化石燃料に対してCO2排出量1トンあたり289円が課税されています。英国では約2,600円、フランスでは約5,600円、スウェーデンでは約1万5,000円という水準だそうだから、日本は極端に低い。
この「地球温暖化対策税」の税率を引き上げるというシンプルな方法も考えられますが、その税収は「エネルギー特別会計」に繰り入れられて、地球温暖化対策に充当される。
事業者の税負担が増え、消費者に転嫁される可能性が高い場合、その税収の使途は、所得税減税で家計負担を軽減したり、法人税減税で企業の負担を軽減したり、産業構造転換に使ったり、納得感のあるものにできるほうが望ましい。
すると、使途が限定されてしまう「地球温暖化対策税」の引上げ以外の方法を考慮したほうが良い。
現行の「石油石炭税」については、CO2排出量1トンあたりの税負担が、品目ごとにバラバラで不公平感が大きい。原油・石油製品は779円、ガス状炭化水素は400円、石炭は301円。この格差をなくすような「炭素税」を設け、原油・石油製品は低額に、石炭は高額に設定する方法もあるでしょう。
公平で、使途についても納得感があり、事業者の技術革新を促し、成長に繫がるような税制を構築しなければならない。
今後も専門家による様々なアイデアが出てくると思うので、よく注視しながらベストな税制を考えていきたいと思います。