要するに、軍事力では世界最強の米軍が、イスラム原理主義勢力の一つに過ぎないタリバンに、20年間戦って敗北を喫したということだ。タリバンはスポークスマンの会見で、国際社会に柔軟に対応していくかのような姿勢を取っているが、かつて偶像破壊と称してアフガニスタン中部バーミヤンの石仏を破壊する暴挙を働いたタリバンが急に穏健路線に転ずるとは考えにくい。あるとすれば、国際的支援が欲しいので取りあえずは低姿勢を取るとの戦術的変化だろう。
共通関心事はテロの温床の回避
国際社会の最大の関心は、新しいアフガニスタンを再びテロの温床にさせないことだろうが、旧来のタリバン路線が続く限り、そのような事態を避けることは難しい。現にシリアのイスラム過激組織「シリア征服戦線」(旧ヌスラ戦線)は声明を出して、タリバンのアフガニスタン制圧に祝意を表した。鳴りを潜めているアルカーイダや「イスラム国」(IS)の残党が集結する事態にならないと保証するのは難しい。
タリバンに最も影響力を及ぼす国家として脚光を浴びるのはパキスタンだ。過去数十年間にわたってタリバン幹部をかくまってきたのはパキスタンの情報機関である三軍統合情報部(ISI)だ。米同時多発テロの首謀者ウサマ・ビンラディンの長年の潜伏先も、米軍特殊部隊に殺害された場所も、共にパキスタンであった。そのパキスタンは世界第7位の核保有国で、2019年現在で約150個の核兵器を持っていることを忘れてはならない。
バイデン米大統領は民主主義国対専制主義国の対立の図式を描いて中国に対応してきたが、新たに国際テロとの対決という大きな課題を背負うことになる。中国も似たような事情を抱えており、王毅外相のタリバン絡みの精力的な行動が各国外相の中でも際立った。理由は、タリバンとの関係が疑われているウイグル人分離独立組織「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)の動向と、中国の広域経済圏構想「一帯一路」におけるアフガニスタンの位置づけが、重要課題として中国にのしかかっているからだ。
どうなる「民主主義対専制主義」
2001年9月11日の米同時多発テロ直後の23日、当時の唐家璇中国外相はワシントンに飛んでブッシュ米大統領と会談。翌10月には上海でブッシュ大統領と江沢民中国国家主席が会談した。2002年には江主席がブッシュ大統領のテキサス州の自宅を訪れた。いずれの機会でも、国際テロにどう対応するかが主題であった。
米中両国にとって、アフガニスタンがテロリストの温床として「共通の敵」となる事態は避けなければならないが、民主主義国対専制主義国という米中対立の構図には弾力性が出てきそうだ。(2021.08.23国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)