東京五輪開催は日本にとって最大のチャンスだ|猪瀬直樹

東京五輪開催は日本にとって最大のチャンスだ|猪瀬直樹

「オリンピック出て行け」などと叫んでいる人たちを見ると、まるで鎖国していたころの尊皇攘夷派と一緒だという気がしてならない。 コロナ禍のいまだからこそ、人間の限界に挑戦する選手の活躍から勇気をもらうことが「夢の力」につながる。  


いま「オリンピック出て行け」などと叫んでいる人たちを見ると、まるで鎖国していたころの尊皇攘夷派と一緒だという気がしてならない。攘夷は、事態が明らかになるとたちまち消え、尊皇開国に転向して何ごともなかったかのように次のステージ、鹿鳴館へと移っていった。ロジックより感情で動いてきたのが日本人だとつくづく思う。  

そして、なんだか日本人が陰険になっているような気がしてならない。 来日オリパラ関係者約7万8000人に以下(下の図表参照)のことを義務付けているのに、「彼らが原因でパンデミックになったらどうする」と言うなら、日本国民が普段どれだけ気をつけているかも問われるはずだ。来客だけに厳しい義務を要求し、来客から感染させられたらどうするのだと言うが、来客を日本人側からも感染させないようおもてなしをするのが道義ではないか。  

安易に五輪反対を唱えている人たちは、選手がどれほどの努力や苦労を重ねて五輪に備えているか知っているのか。1980年のモスクワ五輪に日本は参加しなかったが、出場のために全てを賭けていた若者たちにとっては一生悔やまれることになった。  

2020年にピークを合わせるために頑張ってきた選手たちも、1年だけなら何とかなるかもしれないが、2年延期というのは選考のやり直しが求められることや、他の国際大会との兼ね合いもあり、あり得ない。選手はみな今年に賭けている。  

選手だけではない。それを支える大勢の人たちの頑張りを見ていたら、「やめろ」 「中止だ」などと軽々には絶対に口にできない。そうしたことを平気で言う人たちの心の冷たさ、共感能力のなさには、同じ日本人として悲しくなる。

呆れるほど無責任な批判

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呆れるのは、いまだに「なぜ夏にやるんだ」などと批判している評論家がいることだ。IOCは、カタール・ドーハの女子マラソンが4割のリタイアを出したことで危機感を抱き、マラソンの開催地を札幌に変更した。マラソンで大量のリタイア、もし死者でも出したら、夏開催という五輪経営の根本が崩れてしまうからだが、この時とばかりに五輪批判をする無責任な評論家が現れた。  

なかには、東京大会の立候補ファイルに「温暖でアスリートに最適」などとなぜ書いたのか、と批判しているが、当たり前ではないか。日本の気候は熱帯ではなく温帯なのだから。その事情は、ライバルのイスタンブールもマドリードも変わりない。気温は同程度だ。招致を競っているときに、わざわざ東京のみ不利な表現を入れるわけがない。  

しかも日本は7月半ばまで雨季が続き、9月になると台風が来襲する。夏休みの最中が五輪開催期間となるのは、日本にとっては最適な季節なのだ。毎夏、甲子園で高校野球大会が開かれている。学校の夏休み期間でもあり、会社勤めの人も順番に休暇を取る季節で、交通機関のことも考えると最も適している。  

基本的にはマラソンなどを除くと、競技は昔と違ってエアコンの効いた室内競技場が中心となる設計だったこともみな忘れ去って、無責任な批判に終始している。  

そもそもIOCの五輪開催は夏だと決まっており、そこに立候補した以上は夏に行うのが当然で、こんな当たり前のことすら誰も言わない。五輪経営が、米放送局NBCの放映権をベースに行われていることは周知のとおりで、これはアメリカの四大スポーツの端境期が夏だからだ。  

そうしたことまで批判する人たちはテレビで五輪を見ないのだろうか? リオデジャネイロ大会ではリオまで行ったのか? ロンドン大会でロンドンに行ったのか? 世界中の大多数が五輪はテレビで視聴するものであり、その放映権料を各国のテレビ局が支払うことに何の問題があるのか。

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