新年に向けての国際情勢には三つの大きな潮流があると思う。第一は、戦後確立されたかに見えた国連などの国際機関が機能不全を露呈し始めたことだ。トランプ前米政権は国際機関からの脱退を開始したが、それをバイデン現政権が修正しつつある。次の政権がどのような行動をするか不明だ。第二は、中国のすさまじい勢いと言っていい台頭である。国力の増大だけならまだしも、他国の主権に公然と干渉しようとする「暴走」に世界が顔をしかめだした。第三は、日本にとって最も重要な同盟国米国の動向が不確かなことだ。
予想を超えた中国の台頭
米国が衰退していくのか、あるいはどこかの段階で立ち直るのかは定かでない。「衰退」が問題になったのは、14年近く前にフォーリン・アフェアーズ誌(2008年5~6月号)が「アメリカは衰退しているか」との特集を載せてからだった。ここに登場した評論家のファリード・ザカリア氏は、米国の「絶対的な衰退」はあり得ないと説き、米外交問題評議会会長のリチャード・ハース氏は、国際社会が「米国1極時代」から「無極化時代」に向かうだろうと予想した。
この2人の論者は、中国がこれほど短期間に国力をつけ、大国として振る舞うとは予想できなかったのかもしれない。また、米中両国が真っ向から四つに組み、それに対応するかのように中国とロシアが「便宜上の結婚」すらしかねない動きをするとは、思わなかったかもしれない。
米国の悩みは深刻になりつつある。トランプ現象といわれる変化は、国内の所得格差、人種問題に伴う緊張の高まりなど、もろもろの社会的不満の大爆発であった。米国社会は、民主、共和両党の対立、民主党内の左右両派の対立などを反映しているといわれ、トランプ政権末期には大統領支持者が議会に乱入する場面もあった。囃(はやし)立てるように中国の環球時報英語版には「米国の没落」と題する論説記事が出ていた。
米国の「衰退」とは何を指しているのか。自由な言論が許される米国では、政府に反対する意見や行動が大っぴらに繰り広げられ、マスメディアがそれを報道する。これを「衰退」と称して喜んでいる国には、党を批判する言論、行動の自由が一切ないことを今こそ知るべきだろう。
心配なバイデン氏の年齢問題
バイデン、トランプ両政権の違いはどこにあるか。両大統領の対中発言に大きな差はない。が、バイデン大統領には、来年80歳という年齢問題が付きまとう。例えば、ロシアの大軍がウクライナに侵攻した場合にどう対応するかとの記者の質問に対し、バイデン大統領は「米国が単独で軍事力を使うことは検討していない」と答えた。これが軍事的にどれだけ重要な意味をもつのかは、素人でも分かるだろう。外交問題に経験豊富なバイデン氏の発言とは思えない。
米国の多様性を重視するところから選ばれたといわれる非白人女性のハリス副大統領には人気がさっぱり集まらない。米国の混乱は同盟国を憂慮させ、独裁国を喜ばせる。とりわけ日本にとって米国は命綱である。波乱含みの新年だ。(2021.12.27国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)