中国人は昔から、一族の利益を最優先し公の利益を平気で損なう、と本欄で解説したが、易姓革命が起きる最大の理由は、まさにここにある。
中国の王朝は、すべてどこかの一族が作り、その一族のものとなる。たとえば漢王朝は劉という一族のもの、唐王朝は李氏一族のものという塩梅である。そして、劉氏一族や李氏一族にとって、王朝が自分たちのものである以上、天下国家そのものが自分たちの所有物であって、自分たち一族のために天下万民から搾取するのは当たり前のこととなる。王朝の支配が長く続き、皇族一族の人数が膨らんでいくにつれて民衆に対する搾取も激しくなっていく。それが民の不平不満の高まりを招き、易姓革命を誘発する。
さらに具合の悪いことに、王朝支配の一族が天下国家のことを「公」と思っていないのと同様、実は天下の万民も王朝と国家を「公」であるとは思っていない。王朝と国家はせいぜい「一族」の私有物であって民のためのものではない、と皆が分かっている。だから王朝の搾取に喘いで食べていけなくなる時、誰もが「一族」の私物である王朝に反旗を翻す権利がある。そして全国各地から「一族」にとって代わって天下国家を手に入れようとする豪族が出てくる。つまり、易姓革命の発生は必然なのである。
しかし、易姓革命を通して天下をとった新王朝の一族も、やはり前王朝の一族と同様に天下国家を私物化していくため、易姓革命は永遠に終わることはない。中国という国はいつになっても、革命とそれに伴う戦乱、破壊の歴史を繰り返していくのである。
いまの「共産党新王朝」が成立してから72年経ち、民に対する搾取と抑圧はますます酷くなっている。お家芸の易姓革命はいつかまた、かの国で起きるだろう。(初出:月刊『Hanada』2021年4月号)
評論家。1962年、四川省生まれ。北京大学哲学部を卒業後、四川大学哲学部講師を経て、88年に来日。95年、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。2002年『なぜ中国人は日本人を憎むのか』(PHP研究所)刊行以来、日中・中国問題を中心とした評論活動に入る。07年に日本国籍を取得。08年拓殖大学客員教授に就任。14年『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞を受賞。著書に『韓民族こそ歴史の加害者である』(飛鳥新社)など多数。