「猫にやさしい島」、男木島の猫たち|瀬戸内みなみ

「猫にやさしい島」、男木島の猫たち|瀬戸内みなみ

瀬戸内みなみの「猫は友だち」 第3回


ネットで広がった「デマ」

「TNRの手術のせいで感染症が蔓延して、男木島の猫が激減した」という話が、今ごろになってネットに流れていると知って私はビックリ仰天した。知り合いが教えてくれたのだが、もちろん完璧なるデマ、デタラメだ。

当時、手術や捕獲にあたったのは経験豊富なベテラン獣医師数名と、猫の保護に関して長年ノウハウを蓄積してきたたくさんのボランティア・スタッフで、何か間違いがあればすぐに気づいたはずである。2年も経って急に感染症が出るはずがない。しかも具体的な病名のひとつも挙げられていないのはおかしい。

それでも、

「ホントなのかな?」

と不安そうにいう彼女を見て、私は改めてネット言論の無責任さに唖然とした。そういえば最近出たガイドブックに、

「男木島の猫の数:30匹くらい」

とあるのも不思議だなあと思っていたところだった。というわけで私はまた男木島に行ってみたのである。

猫は観光客のためにいるのではない。多すぎる猫に対して住民の苦情が出て、TNRをしたのだから、数が減って当然なのだ。ただ30ということはないだろうと思っていたところ、

「100匹近くはおるよ」

と聞いて、ひとまず安心。さらに、

「感染症? なんやその話。知らんなあ」

といわれてホッとする。些細なウソやウワサがきっかけで、「住民が猫を虐待している」などとすぐに大炎上するご時世である。そこまでの大事にはいたっていないようだ。

観光客の「期待」と「不満」

かつて私が初めてこの島に足を踏み入れたとき、それはそれは感動した。あっちからもこっちからも猫たちが、次々に私に向かって走ってきてくれたからである。まだTNR前のことだ。

「やったあ♡」

と私は内心、ハートマーク付きで快哉を上げた。なんてかわいい、ひと懐っこい猫たちなのだ。こうして波のように押し寄せる猫の大群を撮影した写真は、今でもネット上のあちこちで見ることができる。写真の通りだー、と私は喜んだのだ。

けれども本当は、喜んではいけなかったらしい。猫たちが寄ってくるのは、観光客がキャットフードを持っていると学習したから。つまり彼らは年がら年中お腹を空かせていたのである。実際、男木島の観光関係者には、

「猫たちがみんな痩せていてかわいそうだ」「病気や怪我をしている猫がたくさんいる」

という苦情が多数寄せられていたという。

TNRをきっかけに、男木島で猫の面倒を見ていたひとたちはキャットフードを十分に与えるようになった。日常に満足しきった猫はどうするか。物かげに隠れて寝てばかりいるようになったのだ。

これぞ人間が思い描く、猫本来の姿ではないかといえばそうかもしれない。でもコトはそれでは済まなかった。写真のような猫まみれの光景を求めてやって来る観光客の、不満が噴出し始めたのである。

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