台湾総統選 頼清徳氏の勝利と序章でしかない中国の世論工作|和田政宗

台湾総統選 頼清徳氏の勝利と序章でしかない中国の世論工作|和田政宗

中国は民進党政権を継続させないよう様々な世論工作活動を行った。結果は頼清徳氏の勝利、中国の世論工作は逆効果であったと言える。しかし、中国は今回の工作結果を分析し、必ず次に繋げてくる――。


史上初、候補全員が台湾生まれの「本省人」

1月13日に投開票された台湾総統選で、民進党の頼清徳氏が勝利した。得票数は、頼清徳氏558万6019票、国民党の侯友宜氏467万1021票、民衆党の柯文哲氏369万466票であった。大激戦の可能性も伝えられたが、現副総統である頼清徳氏がしっかりとした形で勝利した。

これは、中国に確固たる姿勢で対峙してきた民進党政権が支持されたということである。

今回の選挙戦においては、「独立か統一か」「台湾か中国か」といった二択の選択を迫る候補はいなかった。すでに台湾では、1980年代後半の民主化以後に生まれた台湾人意識の強い「天然独」の世代をはじめ、みずからを「台湾人」と考える人たちが6割を超えている。

「自分は台湾人であり、台湾は中国とは別の存在」「台中関係は現状維持」という人たちが多数を占めるという前提の中で、中国と対峙するのか融和路線に転換するのかが争点となった。

この選択において台湾の人たちは、軍事統一も辞さないという中国・習近平政権とはさすがに融和はできず、しっかりと中国に対峙し台湾を守ることを掲げた頼清徳氏を総統に選んだ。

台湾政治大学選挙研究センターの昨年6月の調査によれば、自らを「台湾人」だとする人は62.8%で、30年前に比べ40%以上も増えている。「台湾人でも中国人でもある」が30.5%、「中国人だ」はわずか2.5%で、いずれも減少傾向である。また、台中関係の「現状維持」を望む人は60.7%で、「台湾独立」を望む人の25.9%を大きく上回っている。

こうしたことから、国民党の侯友宜氏が演説において、中国語(北京語)に加え台湾語を多用したことは印象的であったし、今回は史上初めて総統候補3人全員が台湾生まれの「本省人」となった。

Getty logo

偽情報がSNSで大量に拡散された……

「台湾人」とのアイデンティティーが強まる中での総統選で、中国は民進党政権を継続させないよう様々な世論工作活動を行った。「選挙結果は与党有利にでっち上げられる」といった嘘の情報がSNSで大量に拡散され、頼清徳氏が野党候補を称賛する偽動画もSNSで拡散された。偽情報の多くは、民進党を不利にさせようとする内容であった。

昨年11月には、台湾がインドからの労働者を受け入れる協力覚書を交わす方針が明らかになったが、SNS上では蔡英文政権の方針を批判し、インド人への差別的な発言とともに受け入れに反対する投稿が次々に書き込まれるなど不審なアカウントからの投稿が相次いだ。

NHKの分析によれば、『アカウントは数か月前に作られたばかりで、投稿の文章が似ていたり、他に投稿やフォローなどの活動がない』(令和5年12月23日)ことがわかったとのことである。

さらに、台湾の検察は昨年12月、世論調査結果を捏造し流布した疑いで記者を拘束した。この記者は中国福建省の共産党委員会の指示を受け、昨年10月以降で8回にわたり、総統選の支持率を捏造。総統選の支持率で国民党の侯友宜氏が、民進党の頼清徳氏をリードしているとの偽のニュースを流した。

なお、昨年5月のトルコ大統領選では、エルドアン大統領の集会で、テロリストが野党候補クルチダルオール氏への支持を表明するという偽映像が公開された。日経新聞は、『政権の影響下にある主要メディアがそのまま報じた。「野党はテロリストと手を組んだ」と真に受ける市民も多くいた』(2023年5月16日)と報じた。

関連する投稿


「信じるか、信じないかはあなた次第」コナン・ドイルとトーマス・エジソンがはまった“見えない世界”|松崎いたる

「信じるか、信じないかはあなた次第」コナン・ドイルとトーマス・エジソンがはまった“見えない世界”|松崎いたる

信じたいものを信じる―ーそれが人間の根本的心理。オカルトにはまった偉人たち。コナン・ドイルとトーマス・エジソンが追い求めた「妖精」と「心霊」。私たちは、ドイルやエジソンの試行錯誤を「馬鹿げている」などと笑うことは決してできない。


中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】

中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『中国を利するだけだ!「習近平失脚説」詐術の構造|遠藤誉【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


進化する自衛隊隊舎 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

進化する自衛隊隊舎 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

かつての自衛隊員の隊舎といえば、和式トイレに扇風機、プライバシーに配慮がない部屋配置といった「昭和スタイル」の名残が色濃く残っていた。だが今、そのイメージは大きく変わろうとしている。兵庫県伊丹市にある千僧駐屯地(せんぞちゅうとんち)を取材した。


人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国と対峙し独立を勝ち取る戦いを行っている南モンゴル。100年におよぶ死闘から日本人が得るべき教訓とは何か。そして今年10月、日本で内モンゴル人民党100周年記念集会が開催される。


変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

自衛隊員の職務の性質上、身体的・精神的なストレスは非常に大きい。こうしたなかで、しっかりと休息できる環境が整っていなければ、有事や災害時に本来の力を発揮することは難しい。今回は変わりつつある現場を取材した。


最新の投稿


救急隊員が語ったラブホテルのやばすぎる怪現象|なべやかん

救急隊員が語ったラブホテルのやばすぎる怪現象|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!信じるか信じないかは、あなた次第!


日本心臓病学会創設理事長が告発 戦慄の東大病院⑥無気力な東大医学生たち|坂本二哉【2025年11月号】

日本心臓病学会創設理事長が告発 戦慄の東大病院⑥無気力な東大医学生たち|坂本二哉【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『日本心臓病学会創設理事長が告発 戦慄の東大病院⑥無気力な東大医学生たち|坂本二哉【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【マーケティングから見た政治】小林鷹之「弱者の戦略」で大逆転|松尾雅人【2025年11月号】

【マーケティングから見た政治】小林鷹之「弱者の戦略」で大逆転|松尾雅人【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『【マーケティングから見た政治】小林鷹之「弱者の戦略」で大逆転|松尾雅人【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】サンモニ、本格的な高市攻撃を開始|藤原かずえ

【今週のサンモニ】サンモニ、本格的な高市攻撃を開始|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


米国を破壊するトランプの“ラ米化”|上野景文(文明論考家)

米国を破壊するトランプの“ラ米化”|上野景文(文明論考家)

トランプ政権の下で、混迷を極める米国。 彼の目的は、いったい何のか。 トランプを読み解く4つの「別人化」とは――。