世界の土地と人民のすべては中華帝国の所有物
前回の本欄(知己知彼)は、中国が作り出した「中華民族」という虚構の欺瞞性と危うさについて解説した。
実は、この怪しげな「中華民族」の虚構の背後にはもう一つ、非常にタチの悪い中国の伝統思想が潜んでいる。世にいう「中華思想」というものだ。
昔ながらの中華思想とは要するに、中国人が自分たちの住む国を世界の中心だと勝手に認定し、自分たちの文明を世界の最高にして唯一の文明だと一方的に宣言したうえで、外部世界に対する「中華」の絶対的優位を主張するという考えである。言ってみればそれこそは天下一品の自惚れ・ホラ吹きの極め付きであるが、昔の中国人は至って真剣にそう思っていて信じて疑わなかったし、いまの中国人の世界観の根底にも、この伝統思想の悪しき影響は依然として根強く残っている。
中華思想の一つの重要なる側面は、すなわち「王土思想」である。中国古典の『詩経』の小雅には、「溥天之下、王土に非ざる莫く、率土之浜、王臣に非ざる莫し」というのがある。現代語に訳すれば、「天の下にひろがる土地はすべて天の命を受けた帝王の領土であり、その土地に住む人民はことごとく帝王の支配を受くべきもの」という意味合いである。漢王朝以降の歴代王朝において、それがそのまま、中華帝国の政治原理となっている。
要するに中華帝国の人々からすれば、天命を受けた「天子」としての中国皇帝こそが、「天下」と呼ばれるこの世界の唯一の主であるから、世界の土地と人民のすべては中国皇帝、すなわち中華帝国の所有物だ、というのである。