朝日新聞による言論抹殺―前編|小川榮太郎

朝日新聞による言論抹殺―前編|小川榮太郎

2017年12月25日、私と飛鳥新社は拙著『徹底検証 「森友・加計事件」朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』が名誉毀損に当たるとして、朝日新聞から5000万円の民事訴訟を提訴された。私は、以下に述べる理由により、この訴訟そのものが日本社会の「言論の自由」を、今後大きく抑圧する可能性のある禁じ手だと考える。


再回答から逃げた朝日

ここで本音を言わせてもらおう。実は私には、今回の朝日訴訟の件で書くことなど、本当はもうないのである。

2018年2月号の『月刊Hanada』に公表したとおり、私はすでに朝日新聞からの申入書に回答している。そこで十分意を尽くした。ところが、朝日は再回答から逃げた。回答から逃げ、私の回答を全く踏まえていない訴状を送り付け、高額の賠償請求を仕掛けてきた。

言論機関としても日本の大企業としても、この段階で朝日の負けは確定している。不戦敗に逃げた相手のことを何度も書くのは、正直、面倒くさいのである。

そもそも論を言えば、私は森友・加計の朝日新聞報道に関して充分に読み、充分に調べ、充分に考察して、その研究の成果として『徹底検証 「森友・加計事件」朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』を著している。

この研究過程で私は、朝日新聞が社会通念としては「報道犯罪」と呼ぶ他ない悪質な手法で「安倍疑惑」の「捏造」を展開しているという「概括的な事実」を発見した。その時、私のなかで朝日新聞の「犯罪」性は確定している。

朝日が申入書を書こうが、裁判を起こそうが、新聞紙に残した「犯跡」は消えない。私との訴訟で万一提訴の一部が認められようとも、史上最悪級の「報道犯罪」の事実を、後世は繰り返し検証し続けるだろうし、歴史的汚名は永久に消えないのだ。なぜ、そんな基本がこの犯罪者たちにはわからないのだろう。

そこにいまの朝日新聞の組織としての末期的な腐敗を感じるが、訴状とともに朝日新聞が発表した広報担当執行役員、千葉光宏氏のコメントにそれがよく表れている。いささか長いが、これこそ歴史的汚点として残すべき文書なので、全文引用しておきたい。

《小川栄太郎氏の著書には、森友・加計学園に関する朝日新聞の一連の報道について事実に反する記載が数多くありました。本社には一切の取材もないまま、根拠もなく、虚報、捏造、報道犯罪などと決めつけています。具体的にどう違うか指摘し訂正を求めましたが、小川氏は大半について「私の『表現』か『意見言明』への苦情に過ぎません」などとして応じませんでした。出版元も著者の小川氏任せで、訂正は今後も期待できません。

この本が出版された後、本社の報道を同じ調子で根拠もなく捏造などとする誹謗・中傷がありました。読者の皆様からも、ご心配いただく声が寄せられています。

「言論の自由」が大切なのは言うまでもありません。しかし、小川氏の著書の事実に反した誹謗・中傷による名誉毀損の程度はあまりにひどく、言論の自由の限度を超えています。建設的な言論空間を維持・発展させていくためにも、こうしたやり方は許されるべきではありません。やむを得ず裁判でこの本の誤りを明らかにするしかないと判断しました》

部分部分への難癖のみ

細部の「事実」を都合よく組み合わせながら、明らかに「嘘」と言える全体像を作り出す典型的な朝日の作文である。罪の意識なしにこんなことのできる神経が、私にはどうしても理解できない。

第1に、私の著書には《事実に反する記載が数多く》書かれていない。朝日新聞の訴状によれば、事実に反する記載の「摘示事実」は13件に過ぎない。本書全部が朝日の捏造を指弾していることを考えれば、これは逆に、本書の大半を朝日が事実と認めていることを意味する。

しかも、「摘示事実」のほとんどは「事実」ではなく、「解釈」や、取材をもとにした「伝聞・推定」だと明確に分かる箇所だ。

本当に拙著に《事実に反する記載が数多く》書かれているなら、朝日は紙面で歴然たる嘘の数々を対照表にして示し、私の本のデタラメぶりを喧伝すればいいではないか。

第2に、《本社には一切の取材もないまま、根拠もなく、虚報、捏造、報道犯罪などと決めつけています》とあるが、取材に関する私の考えは2018年2月号の『月刊Hanada』に書いている。それに反論もせず、こう決めつけたコメントと訴状を公開するのは、明らかな私への名誉棄損である。また、《根拠もなく》とあるが、私は280頁の著書全部を「根拠」に、「朝日新聞が存在しなかった『安倍疑惑』を長期間の紙面全体を使って捏造したこと」を「証明」したと主張しているのである。

朝日が「捏造」 「虚報」を否定するなら、この本書全部証明への構造的な反証が必要だ。ところが、訴状を見ても、本書の構造への反論が全くない。部分部分の記述に難癖をつけても、全部証明を全くひっくり返したことにならないのは論理学の初歩以前である。

たとえば、私が『中国共産党の蛮行』という本を書いて、法輪功弾圧や天安門事件、チベットなどについて詳論したとする。中国共産党が「我々は『蛮行』などしていない」と言いたければ、全編にわたって私が記述した「蛮行の一覧」の大半を反証可能な「事実」によって否定し続けなければならないであろう。

それをもし、「小川の著書には『習近平はその時にやりと笑いながらうなずいた』とあるが、習近平がその瞬間ににやりとした事実はない」とか、「小川の著書には『街を片っ端から破壊した』と書いてあるが、〇丁目〇番地の建物や△丁目△番地の建物は破壊していないから、『片っ端』から破壊したというのは事実に反する」とかの反論を13カ所ばかりしたところで、「中国共産党の蛮行」という大枠の事実への反論になるだろうか。

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