10月26日、菅義偉首相は所信表明演説で、「2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。この基本方針には野党も表立って反論できない。加えて、菅首相は「安全最優先で原子力政策を進める」と明言した。脱炭素化に原子力発電所が必要なことをにじませ、安全な原発の新増設への端緒をつくろうとする菅首相の深謀遠慮が冴(さ)え渡る。
再エネ礼賛の錯覚
現在、国際的に再生可能エネルギー(再エネ)が礼賛され、世界中が再エネで電力の全てをまかなえるかのような錯覚に陥っている。これは大きな間違いである。太陽光で発電できるのは、1日のうち約6時間、24時間のうちの25%しかない。我が国の晴天確率は、地域差はあるものの約50%である。つまり太陽光発電の稼働率(正確には設備利用率)は、25%の半分の高々13%しかない。残りの時間帯は、水力発電所と火力発電所が電気を供給している。もう1つの再エネの主力電源である風力発電の稼働率は20%程度である。風が強いところを選べる洋上風力では30%になるとされるが、我が国の近海で風が常時強い遠浅の適地は少ない。
天候により電気出力が変動する「変動再エネ」を補うため、液化天然ガス(LNG)を燃料とするガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた複合サイクル(GTCC)発電が活躍している。最新の石炭火力発電所は石炭をガス化してGTCC発電を行うため、CO2を従来の火力発電に比べて17%も減らせる。
しかし、CO2の排出を実質ゼロにするためには、これらの火力発電の代わりの電源が必要である。台風が来れば、豪雨で太陽光はゼロ、風力発電機も強風による損傷の防止のため回転を止め、発電できない日が1週間続くこともある。この間、変動再エネは火力か原子力のサポートが必要で、我が国がお手本とするドイツは現在も多量の石炭火力と原発を使っている。