それでは「民間等資金等」として東京都が地方債を発行することはできるのでしょうか。
平成24年から、地域の自主性及び自立性を高める観点から、財政状況について一定の基準を満たす地方公共団体については、原則として、民間等資金債の起債にかかる協議を不要とし、事前に届け出ることで起債ができる事前届出制が導入されました。
令和元年度の地方債計画によると民間等資金は市場公募資金3.9兆円、銀行等引受資金3.3兆円になっています。もし、東京都が15兆円以上の地方債を市場公募資金、または銀行等引受資金として発行した場合、令和元年度地方債計画における民間等資金の2倍以上の債権が発行されることになります。
山本氏は「超優良財政団体の東京の地方債が出れば、金融機関だって欲しいものであろう、と総務省から言葉もいただいている」と話していますが、その根拠は不明です。
また、経済評論家の上念司氏は自身の動画で「日本の地方債マーケットは、実質的に相対取引になっているため、アメリカのようなオープンマーケットにはなっていない」と指摘しています。上念氏によれば、市場公募資金は地方公共団体金融機構が仕切っていること、銀行等引受資金は銀行と地方公共団体の相対取引であるということです。(https://www.youtube.com/watchz?v=82lAfYXZSH8&t=50s)
一般が参加できる市場ではないため、果たして金融機関だけで東京都の地方債15兆円を飲み込めるのでしょうか。
地方財政法第5条にどう書かれているか
もし、東京都が地方債15兆円を発行して、財源が確保できたとします。
山本氏は都知事選の公約として「オリパラの中止、都民全員に10万円給付、学費無料」などを掲げています。
しかし、我が国の地方債は原則として、公営企業(交通、ガス、水道など)の経費や建設事業費の財源を調達する場合等、地方財政法第5条各号に掲げる場合においてのみ発行できることとなっています。
山本氏が掲げる政策は地方財政法5条には当てはまりません。山本氏は新型コロナウイルスを地方財政法第5条の『災害応急事業費、災害復旧事業費及び災害救助事業費の財源とする場合』に当てはまると言います。東京都としてコロナを災害に認定すれば地方債をソフト事業に使えるという考え方です。
新型コロナ担当の西村康稔経済再生相は「内閣法制局と早速相談したが、災害救助法の災害と読むのは難しいという判断だ」と国会で説明しているため、東京都がコロナを災害と独自に指定すれば国とは全面的に衝突することになります。
国と衝突することは反権力の象徴たる山本氏にとって、当たり前のことかもしれません。しかし、将来の都知事が国との闘争に明け暮れていることは、都民にとっての幸福ではないと思います。
地方自治の発展は、国と地方がお互いに連携・協力して進めるべきであり、切磋琢磨していくことで、より良き日本の将来を築くものです。山本氏のように、国との対立をあおるだけでは、地方自治は実現しません。
むしろ、地方財政法第5条の解釈について、内閣法制局の見解を変えるのであれば、国会議員に立候補をして、国政の課題として取り組むべき内容ではないでしょうか。