望月記者の本が続いてしまいますが、それもそのはず。今、リベラル本業界(?)で望月記者は引っ張りだこ。本連載も「望月本 ずぼら書評」に変えてもしばらく続けられるくらいで、今後も頻繁に彼女の名前が登場することになりそうです。
今回のお相手は、「I am not ABE」で文字通りお茶の間を震撼させた、テレビ史に燦然と輝くあの事件でおなじみの、元経産官僚・古賀茂明氏。
おおっと思わせる対談の組み合わせの妙に、つい手が伸びてしまいます。しかも「THE独裁者」ときて「国難を呼ぶ男!」! 石原裕次郎の「嵐を呼ぶ男」を彷彿するこの副題、いやがおうにも興味をそそられます。
安倍政権批判の言説における「安倍総理=独裁者」表現は珍しいことではありませんが、現役記者の本のタイトルとなると話は別です。
「安倍一強とメディア操作」という項では、こんな話になっています。
古賀 (安倍政権は)単にメディアを抑えたということだけでなく、メディア側が「安倍政権というのは尋常じゃない」という感覚を持ったということが、大きく影響しています。
望月 尋常じゃないというのは、どういうことですか。
古賀 いわば、金正恩と戦っているようなものです。これまでの政権では、まさかそこまで言ってこないだろうとか、社長に怒鳴り込むようなことはないだろうというふうに、一定の節度というものがありました。しかし、安倍政権というのは、メディアを本当に潰しに来るかもしれないと思わせた。しかも、個人を潰しに来るので怖いですよ(220ページ)〉
もし安倍総理が金正恩と同レベルの独裁者だったら、古賀さんはもうこの世に存在していないのでは……。北朝鮮で「I am not Kim」とやったらどうなるかは、火を見るより明らかでしょう。
もちろん、安倍政権に批判的であっても、それが事実に基づいていればいいわけですが、「独裁者である」という批判はあまりに現実離れしています。支持率が時に30%台に落ち込む独裁者とは一体……。
何より、安易な表現は「独裁」というものの矮小化にもつながります。「金正恩と戦っているようなもの」というのも、本当の独裁者の下での人権抑圧体制で生きてきた人からは、一緒にするなと言われてしまいそうです。
ホンマモンの独裁者にはダンマリ?
そして不思議なことに、ホンマモンの独裁者が2017年に連発していたミサイルについての非難はまったくありません。「北朝鮮とJアラート」という項もあるのですが、こんなやり取りが。
望月 安倍政権に反対している人たちが、たとえば、加計問題などで旗色が悪くなっていたのに支持率が回復したのは、北朝鮮がミサイルを撃ってきたおかげと、皮肉っています。(後略)
古賀 北朝鮮と連動している、裏でつながっている、という話ですね(笑)。そんなことは絶対にないけれど、でも、安倍政権の命綱になっていることは確かです(後略)(231ページ)
この部分はもちろん(笑)つきの冗談ですが、問題はこの後。ミサイルを撃つ北朝鮮に触れることなく、危機を煽る政権とメディアが悪いといわんばかりの(というか、もうほとんどそう言っているも同然の)望月さん1人の発言で終わっています。
米朝会談後の北朝鮮が開放政策に向かうか否かはわかりませんが、独裁者が君臨する人権抑圧国家であるうちに、一度お2人は北朝鮮留学をしてみてはいかがでしょうか。ホンマモンの「THE独裁者」をぜひご体験ください。
【本書の「気になるポイント」】
対米関係などではなるほどと思うところも。ただ気になるのは、中身もさることながら、ところどころに筆者2人のポートレートが掲載されている点。しかも対談時の写真だけではなく、取材中らしき望月記者や、リュックを背負ってなぜかはにかんだ笑顔の古賀さんなど。誰トク?