インド太平洋戦略に欧州を巻き込め|湯浅博

インド太平洋戦略に欧州を巻き込め|湯浅博

米中間ではすでに、後戻りできないサプライチェーン(供給網)の切り離しが始まっている。日本は米国と共に、今回のコロナ危機で「中国離れ」が顕著な欧州を巻き込み、新たなインド太平洋戦略の再構築を図る戦略的好機を迎えた。


武漢ウイルスによる中国経済への極めて深刻な打撃は、全人代で今年の成長見通しを示せなかったことに表れている。習主席は来年の中国共産党創立100周年、そして2022年に到来する5年に1度の共産党大会に向け、内政の不安を対外的な強硬策で乗り切ろうとする可能性が高まる。香港の締め付けを手始めとして、台湾海峡や南シナ海、東シナ海で軍事的圧力を増し、中国本土でも抑圧体制を強化するだろう。習政権は全人代で、国防予算の前年比6.6%増を打ち出し、前年の7.5%増に近い伸びを確保した。

対中抑止の最前線にある日本は、自由で開かれたインド太平洋構想の核である日米豪印4カ国(クアッド)協力の拡大版である「クアッド・プラス」の調整役として、地域の安全保障をリードする立場にある。4カ国に加え、ベトナム、台湾、インドネシアのほかに欧州を説得し、対中抑止の新たな枠組みを構築することが求められる。(2020.05.25 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

著者略歴

湯浅博

https://hanada-plus.jp/articles/401

産経新聞客員論説委員、国家基本問題研究所主任研究員。1948年、東京都生まれ。中央大学法学部卒、プリントン大学公共政策大学院Mid‐Career Fellow program修了。産経新聞入社後に政治部、経済部を経てワシントン特派員、外信部次長、ワシントン支局長、シンガポール支局長、特別記者・論説委員を歴任。2018年6月から現職。著書に『全体主義と闘った男 河合栄治郎』、『中国が支配する世界 パクス・シニカへの未来年表』など多数。

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