中国からの取り立て方法、教えます|「蒟蒻問答」堤堯・久保絋之

中国からの取り立て方法、教えます|「蒟蒻問答」堤堯・久保絋之

本誌名物連載対談「蒟蒻問答」、最新号の2020年6月号から一部分を特別公開。トランプ大統領が武漢ウイルスをめぐって、中国に損害賠償を請求する可能性を示唆している。しかし莫大な金額をどうやって取り立てるのか。その術を堤堯氏が教えます!


中国に賠償させる方法

 先月号のこの対談のタイトルは「国際社会は習近平に損害賠償請求しろ!」だったけど、対談から12日後の3月24日、アメリカの下院で中国が新型コロナウイルスの対応を誤って世界に感染拡大させたと非難する決議案が与野党共同で提出された。

さらに同日、上院でも共和党議員が中心となって、中国が感染爆発を隠蔽した工作を調査し、中国が世界に与えた損害を各国に賠償させる仕組みをつくるべきだとする法案を提出した。まさに我が意を得たりだな。

米議会の与野党あげての怒りに満ちた動きは、ウイルスは「アメリカによって武漢に持ち込まれた可能性がある」とした中国外交部の報道副局長・趙立堅の発言が惹起した。アメリカ人が怒るのも無理ないよ。

とはいえ、中国に損害賠償させるとしても、天文学的な金額になる。それをどうやって取り立てればいいのか。議員の中には具体的な方法を示唆する者もいる。一つは現在行われている関税上乗せの方式で取り立てる。もう一つは米国債を利用する方式だ。

現在、米国債を世界で一番保有しているのは日本で1兆200億ドル、続いて中国が1兆78億ドルだ。米国債はアメリカの借金の証文だ。中国は日本円にして約111兆円分のアメリカの借金の証文を持っている。これをアメリカはパーにする、つまりは借金をなかったことにする手段をもっている。

前にも話した記憶があるけど、アメリカ国債を売買する際の約定に、「アメリカに敵対する国が保有する米国債(アメリカの借金の証文)は無効化できる」とする条文がある。平たくいえば、敵対するなら借金を払わないぞという意味だ。

この条文は「国際緊急経済権限法」(IEEPA)という名の法律で担保されている。「アメリカの安全保障や経済に重大な脅威が発生した場合、外国が保有する米国資産については、その権利の破棄や無効化などができる」という内容の法律だ。

この法律に担保された条文で、しかも「敵対する」だけではなく、「敵対する気配を見せた国」にも適用されるというんだね。

社債なんかは立派な紙として存在しているけど、アメリカ国債はFRB(米連邦準備理事会)のコンピュータの中に数字として存在しているだけだ。いわばバーチャルな、仮装通貨みたいなもんだな。

だからコンピュータの「DELETE」(削除)キー一つをポンと押せば、その数字を消すことができる。先ほど言ったように「敵対する気配」ですら駄目だから、中国がアメリカの要求を蹴飛ばす、つまりは敵対行為に出るなら、キー一つを押すだけで、中国が保有する米国債が消えてなくなる。

これは中国だけでなく日本や他の国についても言えることだ。1兆ドル以上がボタン一つで消し飛ぶんだから恐ろしい話よ。この方式で中国から賠償金をふんだくれという提案も、アメリカの議員から出ている。

久保 そんなことになればドル建ての戦後経済秩序が崩壊、大恐慌になってします。とばっちりをモロに受けて戦後、金の代わりに米国債をしこたま貯め込んだ日本まで大損するんじゃ、とてもアメリカには加担できませんね。それとも、日本もボタンを押すぞとトランプに脅されて、どこまでもついていきます下駄の雪と、最後まで日米同盟を維持して、おこぼれでも頂戴しますかね(笑)。

Getty logo

アメリカは本気で中国叩き

 趙立堅のトンデモ発言はアメリカ国民の多くを怒らせ、反中感情に火をつけてしまった。フランスが中国に発注していた200万枚のマスクを、上海空港でアメリカが3倍の値段で横取りしたと、フランスのテレビが報じていたけど、アメリカは否定していて、ことの真偽はわからない。だけど、米中の情報戦を考えれば、これは中国側が実はフランスに送らずに「横取りされた」と騒いでアメリカを悪者にしようと図ったのかもしれない。

いまや中国は自分のところの感染は落ち着いたからと、被害を受けた他国にマスクや医療器具、食料品やらを送っている。だけど、そもそもは中国が加害者じゃないか。「放火犯の中国が消防夫のふりをしている」と評したアメリカのアジア研究者がいるが、言い得て妙だよ。

いまやアメリカが中国叩きに本気になっていることは、G7外相会談の翌日の3月26日に、トランプが台北法案に署名したことからもわかる。これは台湾を国際会議に出させるなど、国際的に台湾を「国として」認知させることを意図する法案だ。

すでにアメリカは台湾関係法を定め(1979年)、事実上、台湾と軍事同盟を結んでいる。これによってアメリカは台湾に種々の武器を売却している。さらにトランプは台湾旅行法を定めた。両国高官の相互訪問を促進する法案だ。そこへ今度は台北法を加えた。いずれも中国が台湾について主張する「一国二制度(=ひとつの中国)なんて知らないよ」という構えだ。

中国は台湾を「中国の一部」とし、「ひとつの中国」を主張する。米中国交回復のおり、「米国は一つの中国を認めた」と中国は言うけど、これは全くの嘘だ。米国は「中国のそういう主張は知っている(acknowledge)けど、承認する(recognize)わけではない」とする立場だ。中国はそれを勝手に言い換えて主張しているだけ。アメリカは「ひとつの中国」を認めていない。だからトランプが「そんなの認めないよ」と言うのも当然なんだよ。

台湾はSARSで多数の死者を出した経験から学び、今回の武漢ウイルスには実に見事に対応した。昨年12月、武漢で原因不明の肺炎が発生していると知った台湾は早速、中国からの入国者をシャットアウトした。

だからこの台北法によって、5月17日に開かれるWHA(世界保健総会)に台湾を出席させるべきだと主張する米議員もいる。すでに10カ国が台湾参加に賛成を表明している。

台湾がWHAに出れば、国際的に国として認知される。さらにアメリカはその先に、WHO本体への出席、そして国連にも……そう意図していると中国は読む。だから黙っていない。日本はどうするか、今から肚を決めて置いたほうがいい。

以前、フランス映画を見ていたら、老婆が聖書の「ノアの箱舟」を引いて寓話を語る場面があった。ノアはひとつがいの動物たちを箱舟に入れて洪水から守った。ところがネズミだけはどんどん繁殖して増える。増えたネズミが船内の食料を他の動物の分まで食い漁る。困ったノアは神様にどうしたらいいか尋ねる。神様は「ライオンに相談しろ」と答える。

言われた通りノアはライオンに相談した。聞き終わったライオンはフーン!と大きく鼻息を吐いた。瞬間、鼻の穴から数匹の猫が飛び出して、あれよあれよとネズミを駆逐してしまった、とさ。

俺は老婆の話を聞いて、ネズミはいまの中国人だなと思った。世界のあちこちにチャイナタウンを作って資源を食い漁っている。さしあたりライオンはトランプというわけだ。トランプの鼻の穴からは何が出てくるかな。ミサイルかな?(笑)。

久保 新型コロナウイルスに感染したら、鼻水しか出てませんよ(笑)。その前にライオンが船から消えてなくならないかと、僕は心配しています。バイデンなんて見るからに頼りない感じで、大統領の器かどうか疑問だけど、IMFが予測するようにリーマン・ショック後の未曽有の経済危機を超える大恐慌になれば、さてどうなるやら。仮にバイデンが次期大統領になれば、オバマのような対中融和策の悪夢が再び訪れかねませんからね……。

(この他にも武漢ウイルス人工説、サリン事件から学べなかった日本……などなど、話題が盛りだくさんな「蒟蒻問答」はぜひ本誌でご一読を!)

関連する投稿


虚しき岸田政権のコピペ外交|山口敬之【WEB連載第21回】

虚しき岸田政権のコピペ外交|山口敬之【WEB連載第21回】

11月13日、東アジアサミットで中国を名指しで批判した岸田首相。「岸田首相は覚醒した」「初めて毅然とした姿勢を示した」と評価する声も出たが、はたして本当にそうだろうか。岸田首相の発言を検証すると、バイデン大統領の発言と「ウリ二つ」であることがわかった――。(サムネイルは首相官邸HPより)


【読書亡羊】中台統一に「タピオカ屋」まで使う習近平 川島真、小嶋華津子編『UP Plus 習近平の中国』(東京大学出版会)

【読書亡羊】中台統一に「タピオカ屋」まで使う習近平 川島真、小嶋華津子編『UP Plus 習近平の中国』(東京大学出版会)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


デサンティス知事の圧勝が教えるもの|島田洋一

デサンティス知事の圧勝が教えるもの|島田洋一

大勝を収めた結果、デサンティス氏は一躍、2年後の大統領選における最有力候補の1人と目されるに至った。デサンティス氏はまた、中国共産党政権によるスパイ行為を防ぐため、フロリダに本拠地を置く諸大学が中国人の研究者や中国の大学と行う共同プロジェクトに制限を課す州法の制定を議会に促してきた。


中国を脅威でないと言い切れるのか|田久保忠衛

中国を脅威でないと言い切れるのか|田久保忠衛

フランスの歴史人口学者・家族人類学者エマニュエル・トッド氏の発言は、日本人の常識を超えるものだった。


対北朝鮮外交の落とし穴|島田洋一

対北朝鮮外交の落とし穴|島田洋一

危惧されるのは、米バイデン政権がブッシュ(子)政権の犯した対北朝鮮外交の歴史的失敗を繰り返さないかである。2007年2月の金融制裁解除を皮切りに、歯止めなき圧力緩和の急坂を転げ落ちていった過去を覚えているだろうか。


最新の投稿


虚しき岸田政権のコピペ外交|山口敬之【WEB連載第21回】

虚しき岸田政権のコピペ外交|山口敬之【WEB連載第21回】

11月13日、東アジアサミットで中国を名指しで批判した岸田首相。「岸田首相は覚醒した」「初めて毅然とした姿勢を示した」と評価する声も出たが、はたして本当にそうだろうか。岸田首相の発言を検証すると、バイデン大統領の発言と「ウリ二つ」であることがわかった――。(サムネイルは首相官邸HPより)


【読書亡羊】中台統一に「タピオカ屋」まで使う習近平 川島真、小嶋華津子編『UP Plus 習近平の中国』(東京大学出版会)

【読書亡羊】中台統一に「タピオカ屋」まで使う習近平 川島真、小嶋華津子編『UP Plus 習近平の中国』(東京大学出版会)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


韓国のプロパガンダに使われたNHK「緑なき島」|和田政宗

韓国のプロパガンダに使われたNHK「緑なき島」|和田政宗

「軍艦島は地獄島だった」「強制連行されたうえ劣悪な環境で働かされ、多くの人が命を落とした」。このような韓国のプロパガンダは、NHKの短編ドキュメンタリー映画「緑なき島」から始まった。NHKの捏造疑惑について国会で何度も質問をしたが、NHKはいまだにはぐらかし続けている――。


デサンティス知事の圧勝が教えるもの|島田洋一

デサンティス知事の圧勝が教えるもの|島田洋一

大勝を収めた結果、デサンティス氏は一躍、2年後の大統領選における最有力候補の1人と目されるに至った。デサンティス氏はまた、中国共産党政権によるスパイ行為を防ぐため、フロリダに本拠地を置く諸大学が中国人の研究者や中国の大学と行う共同プロジェクトに制限を課す州法の制定を議会に促してきた。


3年ぶりの日韓首脳会談 日本は言うべきことを言えたのか|和田政宗

3年ぶりの日韓首脳会談 日本は言うべきことを言えたのか|和田政宗

約3年ぶりに開かれた日韓首脳会談は、岸田総理と尹大統領の初会談でもあった。初会談は相手にくさびを打ち込む重要な会談である。はたして岸田総理は、韓国にくさびを打つことができたのだろうか。(サムネイルは首相官邸HPより)