返還決議を「ばかばかしい」と断固拒否
ところがこの返還決議に対し、中村氏は「ばかばかしい。議案提出者の一人はメモにある当事者」 「個人のメモは公文書ではない」として、返還を拒否した。公文書ではないから返還義務はないというのだ。
だが、この理屈はおかしい。「松山市文書取扱規則」を確認すると、公文書とは「職員が職務上作成し、又は取得した文書」で「職員が組織的に用いるものとして保有しているものをいう」と定めている。
これを中村氏のケースに当てはめるとどうなるか。中村氏は「部下から上がっている文書がある」と発言し、その後、「関係部局が相談したメモ」と言い換えている。職員が作成し、関係部局が相談した、つまり組織的に保有していたとなれば、これはどう解釈しても公文書そのものではないか。
また、最高裁判例(07年12月25日決定)でも、公務員作成の備忘録メモを公文書とみなしている。
そもそも中村氏の発言には嘘が少なくない。たとえば、14年3月4日の愛媛県定例議会での発言。中村氏はレッグに対し、「度重なる行政措置命令を出したにもかかわらず、このレッグという会社は全く従わずに、そして問題が起こった」 「私も当時の市長として、その措置命令に従わすことができなかった」と発言したが、既述のとおり、中村市長時代にレッグに行政命令が出されたことは一度もない。すべてが強制力のない行政指導止まりだった。
もっと呆れるのは、同じ日の議会で、中村氏がレッグについて「得体の知れなさを感じていた」と話していること。そんな会社と知りながら、なぜ中村氏は、だらだらと「指導」を繰り返すだけで済ませていたのか。
私はレッグで役員を務めたことがある人物に取材したが、その実態は驚くべきものだった。この人物がレッグの役員をしていた期間は、中村氏の市長在任時期とピッタリ重なる。
元役員は私にこう話した。
「私は社長に頼まれて何年間かレッグの役員をしましたが、社長以外にどんな役員がいるのか、よく知りませんでした。社長は土地持ちで、廃棄物処理については素人でした」
この元役員によると、レッグ処理場は搬入されたプラスチック廃棄物を再利用することで経営を成り立たせる予定だったという。
「ところが、プラスチックに大量の土砂が混じっていたため、プラスチックの再利用なんて到底無理でした。中村市長時代にはすでに経営は破綻していたと思います。何しろ、ある日、私がレッグの本社事務所に行ったら、事務所自体がなくなっていてビックリしたほどです」
話の内容からすると、役員会議すらまともに開かれていなかったようだ。
市民にのしかかる夥しい負担
念のために松山税務署に提出されたレッグの確定申告書を見ると、07年度の所得金額はわずか249万円。08年度の所得金額は何と3080万円の赤字だった。
当時の松山市長は中村氏だが、こんな会社になぜ業務再開許可を出したのか、理解に苦しむ。
レッグ問題の経緯に詳しい元松山市議は言う。
「ボーリング調査の結果、処理場のシートが破れ、地下水路に廃液が流れたことが確認されました。廃液にはヒ素、水銀、鉛が含まれていました。なぜ、中村氏はレッグの業務再開許可を出したのか。レッグが実質破綻状態のため、行政が汚染対策事業を代執行するしかなく、夥しい負担を市民にかけてしまいました」
昨年11月、松山市はレッグ処理場からの汚水流出防止などの対策工事の終了を発表。また、処分場からの放流水や下流域の井戸水の水質については、いずれも基準値を満たしているとした。
だがレッグ問題が終わったわけではない。市は工事終了後も、処分場の閉鎖まで20~30年間、施設を維持管理することになるという。しかも埋立地には、いまも約25万立方メートルの廃棄物が埋まっており、維持管理費用だけで、少なくとも毎年3000万円かかるという。