【読書亡羊】テック右派が抱く焦燥感の正体とは  カーティス・ヤーヴィン『ネオ君主論』(PHP)|梶原麻衣子

【読書亡羊】テック右派が抱く焦燥感の正体とは カーティス・ヤーヴィン『ネオ君主論』(PHP)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「台湾が共産中国になっても構わない」?

本書を読んでいて驚くのは、教会やメディアや大学、さらには行政機構を加えたアメリカの各組織や、組織を構成するエリート階級の人々のネットワークへの敵意である。ヤーヴィンから見ればこれらは「大聖堂」と化していて、絶対性を帯びてきたのだという。

エリートたちは「民主主義」という響きの良い言葉の裏で、能力主義や実力主義を発明し、少数で世の中を支配しようとしてきた。

つまりアメリカは「誰もが努力次第でと見や権力を得ることができる国」ではなく、事実上の寡頭制となっている。にもかかわらず、民主主義的な手続きを経ているかのように振る舞うことで、判断も行動も後れを取る。これでは中国には勝てない。ならば「ネオ君主制」を取るべきだ、とヤーヴィンは言う。

タイトルにもなっている「ネオ君主論」とは、受動的で手続きを重んじる行政組織のあり方を批判し、CEOが強力な権限を持つ民間企業のような「責任ある君主制」を推すことを指す。本書を読みながら、絶対的権力を国家のリーダーに与えてしまって大丈夫なのか、とトランプ大統領の顔が浮かぶことは間違いない。

実際、ヤーヴィンの論理に沿うように、トランプ政権は行政を官僚機構から大統領の手に取り戻すべく権限強化を図るとともに、議会や司法のチェック機能も無効化しようとしている。

「独裁的に見える民間企業だって、取締役会が解任できる」とヤーヴィンは述べるが、実際の君主制では、自主的な退任以外ではクーデターや革命、議会からの圧力によってその座を追われることになるのであり、取締役会のようにすんなりとはいかないのではないか、など疑問は尽きない。

それでも、アメリカの為政者に影響を与えるヤーヴィンが、中国を警戒していることには日本としては少し安心したい……ところなのだが、実際のところ、ヤーヴィンはこうも述べている。

重要なのは、中国の台頭が他国を搾取する方向ではなく、良きグローバル・シチズンとして振る舞うことが自国の利益になるよう、外部から適切に抑制されることである。

関連するキーワード


書評 読書亡羊 梶原麻衣子

関連する投稿


【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC  スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】九段周辺は「戦争の記憶の貯蔵庫」に溢れている  林英一『戦争記憶の歩き方』(彩流社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】九段周辺は「戦争の記憶の貯蔵庫」に溢れている 林英一『戦争記憶の歩き方』(彩流社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】「信じるか否かはあなた次第」の時代を乗り切るための一冊  松村一志『科学否定論はなぜ人を惹きつけるのか』(ちくま新書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「信じるか否かはあなた次第」の時代を乗り切るための一冊 松村一志『科学否定論はなぜ人を惹きつけるのか』(ちくま新書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】中身スカスカショート動画に負けない良質「政治コンテンツ」化のススメ  澤田大樹『永田町の人をウォッチしてみた』(カンゼン)|梶原麻衣子

【読書亡羊】中身スカスカショート動画に負けない良質「政治コンテンツ」化のススメ 澤田大樹『永田町の人をウォッチしてみた』(カンゼン)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】安倍晋三はこうして歴史になっていく  服部龍二『安倍晋三』(中公新書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】安倍晋三はこうして歴史になっていく 服部龍二『安倍晋三』(中公新書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


【今週のサンモニ】ICC問題、石破元総理の高市批判は明らかに間違っている|藤原かずえ

【今週のサンモニ】ICC問題、石破元総理の高市批判は明らかに間違っている|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC  スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「私が死んでも代わりはいるもの」――「覚悟ガンギマリ」赤根所長が率いるICC スティーヴ・クロウショー『権力者を訴追する』(白水社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


太郎物語「キキ兄さんとぼく」|瀬戸内みなみ

太郎物語「キキ兄さんとぼく」|瀬戸内みなみ

瀬戸内みなみの「猫は友だち」第11回


【今週のサンモニ】不安定化させているトランプ大統領|藤原かずえ

【今週のサンモニ】不安定化させているトランプ大統領|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】九段周辺は「戦争の記憶の貯蔵庫」に溢れている  林英一『戦争記憶の歩き方』(彩流社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】九段周辺は「戦争の記憶の貯蔵庫」に溢れている 林英一『戦争記憶の歩き方』(彩流社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!